思い出の読書体験

今日は、私の本棚の中から、一冊の本との出会いをご紹介します。

今日ご紹介する本は、末盛千枝子さんという女性の自伝エッセイです。「『私』を受け容れて生きる―父と母の娘―」(末盛千枝子著・新潮社)。

私の「読書ノオト」には、平成28年11月2日読了と書かれています。以下、4年も前にしたためた読書ノオトの文章を、ちょっと直したり注を入れたりしながらご紹介します。

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 「末盛」という苗字に聞き覚えがあった。いつ頃だろう、NHKのラジオで「ステージ101」が一夜限りの復活をした時のことだ。1985年から87年ぐらいのことだろうか。(注:ステージ101」は1970年1月から74年3月までNHK総合テレビで放送された音楽番組。オーディションに受かったメンバーはヤング101と言われ、歌や踊りのエネルギーに満ちた大好きな番組だった。) ラジオの生放送で田中星児さん黒沢裕一さんなどヤング101のメンバーが懐かしい歌の数々を披露していると、生放送のスタジオに、最初の司会者だった黒柳徹子さんから電話が入った。その黒柳さんがすごいスピードでおしゃべりした中で印象的だったのが「スエモリさんが生きていらしたら、どんなに喜んだか」という言葉だった。

 この本「『私』を受け容れて生きる」を知ったのは、「高村光太郎連翹忌運営委員会のブログ」だった。彫刻家舟越保武の長女として生まれ、光太郎に名付け親になってもらったというこの女性は、絵本の出版に長く携わり、美智子皇后ともご昵懇、IBBY(国際児童図書評議会 International Board on Books for Young People)の名誉会員にもなったという。NHKディレクターであった夫が突然死、息子が難病を患い、2度目のご主人を病で失い、東北に移住した矢先、東日本大震災に見舞われる。波乱万丈の人生を歩んだにもかかわらず「受け容れて生きる」ことで、苦労も厭わず、毅然として過ごしていらっしゃる。現在は、「3・11絵本プロジェクトいわて」の代表である。

 黒柳徹子さんがかつて「末盛さんが生きていらしたら」と言った、その末盛さんの奥様だ!と結びつき、すぐに本を購入した。(…くせに、なかなか読まないのが私のダメなところである。)

 光太郎連翹忌運営委員会のブログの方も言っていらしたが、「朝ドラにできる」ほどの波乱万丈の人生である。そして、私の興味・好奇心のいろいろが、全部この本でつながってしまうような気がして、ページをめくるたびに胸がドキドキする、不思議な読書だった。

 高村光太郎、智恵子、 舟越保武 、舟越桂、美智子妃、まど・みちお、安野光雅、NHK、ヤング101、黒柳徹子、永六輔、坂本九、御巣鷹山、ボローニャ、絵本、石井桃子、渋谷のジァンジァン、スヌーピー、シュルツ、白血病、東日本大震災etc.

 この本が出版されたときにはまだご存命だった永六輔氏も亡くなり、いま彼女は何を思っているだろうか、黒柳さんの「トットてれび」は見たのだろうか、表紙の絵は安野光雅さんではないか、すごいなあ…。

 信仰心を持ち、人との出会いを大切にし、絵本とそれによって育っていく子供たちの未来を思い、病で倒れた男を看病してやがて再婚し、看取り…。へこたれる日もあったと思うが、それでも、今いるところの自分を受け容れるという生き方には、本当に頭が下がる。聖女であると思った。彼女の周りの本たちを全部読みたい衝動に駆られている。

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 衝動に駆られた後、読んでいないじゃないか、と4年前の自分自身に突っ込みを入れながら、帯にある「幸せとは、自分の運命を受け容れること」という末盛さんの言葉をかみしめています。

 末盛さんのお父様は、長崎の「日本二十六聖人殉教地」にあるブロンズ像の作者である彫刻家の舟越保武さんです。 二十六聖人殉教 の像は、九州研修旅行の折にその地を訪ねた卒業生も多くいるのではないでしょうか。

 1941年、舟越さんに女の子が生まれました。舟越さんは敬愛する先輩の高村光太郎に我が子の名前をつけてほしいとお願いし、光太郎は愛する妻智恵子の名から漢字を変えて、千枝子さんと命名したのでした。

 千枝子さんの人生は本当に波乱万丈です。その千枝子さんが静かに今「運命を受け容れること」が幸せの基盤なのだとおっしゃる。決して、悲壮感や世の中を恨む気持ちはなく、本当に穏やかな文章に終始する一冊なのです。ちょうど同じ頃、学園に阿川佐和子さんをお招きすることになって読んだ「少女は本を読んで大人になる」という本にも、末盛さんは登場されていました。この本の帯には、「10人の女性たちと共に読む10冊の古典的名作」と書かれています。末盛さんは、この中で、「智恵子抄」(高村光太郎)を紹介しています。私の興味ど真ん中です。こうして興味あることが、末盛さんからいろいろつながっていく、不思議な読書体験を平成28年の晩秋から初冬に私は味わっていたのでした。

 末盛千恵子さんは「末盛千枝子ブックス」で絵本の企画・編集や復刊プロジェクトをするなど、現在も活躍されています。素敵な女性と本を通じて出会えたこと、そこからいろいろな方向に興味の矢印が伸びていることを、今も嬉しく思っています。