「君たちはどう生きるか」を読んで

昨日のNHK「クローズアップ現代プラス」でも取り上げられていましたが、新年になって、ベストセラーとして「君たちはどう生きるか」がマスコミに登場する機会が多くなりました。

漫画は100万部を超え、一緒に出された本も30万部、あわせて130万部のベストセラーだということです。
写真では、帯に53万部とありますから、2ヶ月ちょっとで倍近く売れたのですね。
先日の第68回卒業生成人式でも、私はこの本を読んでみてほしいと言いましたが、
昨年12月の講堂朝会でこの本のお話をした後、生徒の皆さんが寄せてくださった感想の中にも、この本を読みたい、読んでみようという声が多く聞かれました。
講堂朝会では「本のちから 言葉のちから」と題して、この80年前の名作を紹介しました。
ここにご紹介する文章は、ある高校3年生の感想です。
講堂朝会で吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」が紹介されていた時、自分も読んだことのある本だったので、とても嬉しかったです。中学1年生になる誕生日に父から貰い、私も本の題名から「難しそう…」と思っていました。ちょうど西遠に入学する前に読んでみた時、確かに難しく、理解もできずに流し読みしてしまった部分もあったのですが、とても考えさせられ、自分の中に刻んでおきたいと思わせる一文があり、読んでおいてよかったなと感じられた一冊でした。その中で、特に自分が印象に残った部分は、雪の日に、北見君たちが上級生に囲まれている時、コペル君は仲間なのにその場に行けずに裏切ってしまったことを、どうすればよいか叔父さんに悩みの相談をしたそのあとの、叔父さんのノートの言葉です。「ぼくたちは、自分で自分を決定する力を持っている。だから、あやまりから立ちなおることもできるのだ。」私たちは人間だからこそ自分がしてしまったことを後悔し、悲しみ、反省することができ、その苦しみのおかげで本来人間がどうあるべきかに気づくことができます。叔父さんのノートの言葉を読んだおかげで、西遠に入学する前のいろんな緊張や不安から救われ、同時に「これからの人生で行き詰った時に参考にしたい」と思ったことを今でも覚えています。そして、この印象に残った部分を今回書き出すために、もう一度数年ぶりにこの本を開いてみることができました。様々な本をできるだけ多く読むことも大切ですが、過去に読んだ本をもう一度読むことで昔の自分とは違った感想も得られると思うので、中1で流し読みしてしまった部分も踏まえ、もう一度この本を読み返したいと思います。この一冊だけでも、まだまだたくさんの印象深い場面があります。それだけ、本というものは、人間の知性を育む点が大きいことに気づくことができました。10代のうちだからこそ分かるものもあるし、人生経験を積んできたからこそきづけるものも、本にはたくさん詰まっています。自分が10代であるうちに様々な種類の本を手に取り、大人になってもう一度読んでみるのも楽しそうだと思いました。
一冊の本が救ってくれた自分の緊張や不安。入学前に読んだ本を久しぶりに手に取った時、きっと彼女は大事なものと再会したような気持を抱いたことでしょう。
きっと彼女は、受験が終わったら、再びこの名作と向き合い、新たな感想を持って、自らの心を成長させていくのだと思います。
この本をプレゼントしてくださったお父様の思いも想像しています。
講堂朝会の感想の中には、私がこの本の中で見つけたいくつかの名言の中でも、コペル君のお母さんの言葉に感動した、と言う人が多くありました。
友人を裏切ったことから立ち直れないコペル君に、お母さんが語ったその言葉は、昨夜の「クローズアップ現代プラス」でもちょうど取り上げられていましたね。
叔父さんの論理的な分析や力強い言葉はコペル君の考え方に大きな影響を与え、生きる力をつけていきます。
一方で、お母さんの静かな、しかし愛情あふれる言葉に、コペル君は心を揺さぶられ、泣いたのでした。
少年、そして少女たちが大人になっていく時、それを見守る「父性」と「母性」の存在の大切さについて大いに考えさせられました。
「名作」と言われる本の力を、私は皆さんに大事にしてほしいと思います。
いつか、自分の子どもが成長していく時に、「これ読むといいよ」とそっと手渡せる本があったら素敵ですよね。
名作には、そんな力があると思うのです。
12月の講堂朝会の生徒の皆さんの感想は、また折を見て紹介を続けたいと思います。