小さな白板2023 第36週

学園祭準備で慌ただしい一週間でした。生徒たちに「白板」に気づくゆとりはあったでしょうか。図書館玄関の「小さな白板(ホワイトボード)」、9月最終週をお届けします。

9月25日(月)
僕のこと自慢に思う人がいて夜道がすごくすごく明るい  

    水野葵似

秋の日は釣瓶落とし。学園祭準備や部活の練習を終えて、疲れて夜道を帰る生徒も多いのではないでしょうか。そんな時、自分のことを自慢に思ってくれる人の存在、褒めてくれる、認めてくれる人の存在は、どんなに彼らの心を明るくすることでしょう。大人は子ども達にいつも前向きな言葉を掛けていかなくてはいけないなと思います。心していたい姿勢です。

9月26日(火)
夏過ぎて犬が布団に飛び入った今日が私の秋の始まり
     坊 真由美

昨年10月23日)の「朝日歌壇」に掲載された短歌です。ペットのそんな行動で季節の変わり目を感じるって、何だかいとおしいなあと思って書き留めました。今年はまだまだ暑い日が続いていますが、室内犬を飼っていらっしゃる皆さん、ワンちゃんはお布団に飛び込んできましたか? お宅の秋は始まりましたか?

9月27日(水)
夕暮れはどうでもいいこと考える あなたが猫を呼んでいるとか
    江戸 雪

犬の次は猫かな、と猫の短歌を探してみました。秋の夕暮れ時、論理的な思考よりも、ぼうっと物思いに耽(ふけ)っていることが多い気がします。「どうでもいいこと」は生産的ではないかもしれません。でも、「どうでもいいこと」こそが、日常の大事なことなのではないでしょうか。猫を呼ぶ声がして、あなたの存在があって…そうした「大事な人」「大事なもの」があることが、かけがえのない日々の要素なのです。

9月28日(木)
胸にあるような気がして叩いても心は自分ではゆらせない
     木下龍也

心ってどこにあるのでしょうね。私もやっぱり胸にあるような気がします。けれど、胸を叩いたって、心は揺らせません。心を揺さぶるようなこと、感動という心の動きは、自分で「しよう」「させよう」と思って起きることではないから。「心」という、実に分かりにくい厄介なものを抱えている私たち人間。取扱説明書があるわけではないし、自分で完全制御可能でもない…。だからこそ、「自分と誠実に向き合う時間」「自分という人間について省みる時間」が必要なのでしょう。

9月29日(金)
一巡したらこの席でまた会えるからそんなに悲しまないで ジョバンニ
     千種創一

読書の秋、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にしたこの短歌をお届けしました。主人公ジョバンニは、カムパネルラと共に銀河鉄道の旅に出ます。しかし、いつの間にか隣席のカムパネルラはいなくなってしまいます。この短歌は、心優しいカムパネルラからジョバンニへのお別れの言葉ですね。一巡したらまた会えるよ、というその言葉が、輪廻を思わせもするし、友情が消えないことを教えてくれているようにも思います。名作の中に入り込んだ、すてきな短歌です。

9月30日(土)
来年も着るかのように片付ける今年限りの夏の制服
     樋口麻紀子

9月も今日で終わり、という日に、この短歌を選びました。昨年11月13日に朝日歌壇に掲載された短歌です。高校3年生やその保護者の皆さんは共感してくれるんじゃないでしょうか。学生時代を終えていくこと、感慨深いものがあります。

昔は、10月1日から冬服に「衣替え」でした。学園祭は当然のごとく冬服でしたっけ。私が教員になってから、西遠では、制服のフレックスタイムを導入し、夏服冬服の切り替えの猶予を設けました。夏冬取り混ぜでは格好が良くないので、「学園祭期間は夏服に揃えましょう」という時代もありました。今は、揃えましょうと改めて指示しなくても、きっとみんな夏服でなくちゃいられないような暑さですね。学園祭の主流も昭和の「おでん」から今や「かき氷」へ。地球温暖化の影響はひたひたと私たちの生活を変えていますね。

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9月が終わり、今朝、カレンダーをビリリと破りました。
今まで、我が家の階段を降りたところには、モンサンミッシェルと羊の群れが私を迎えてくれていたのですが、月が替わり、カレンダーの写真も変わって、今朝羊たちと「お別れ」しました。
モンサンミッシェルは私がとてもとても行きたかった場所。2011年の年末に娘と訪れることができた時は、本当に幸せでした。奇跡の快晴で母と子を迎えてくれたモンサンミッシェル。ひと月の間、階段を下り来るたびに、そんな旅の思い出を甦らせてくれたカレンダーよ、一か月ありがとうね!