仲代達矢さんが亡くなった、と知り、午後しばらく呆然としてしまいました。
真っ先に思い浮かぶのは、NHKドラマ「大地の子」です。私は、ドラマ化される以前に、母と二人で山崎豊子さんの原作を読んでいましたので、ドラマ化されると知った時に母子で大歓声を上げたものです。仲代さんが出る、というだけで、傑作間違いなし!と信じていました。家族みんなで毎週土曜にこのドラマに見入りました。中国残留孤児をテーマにしたこのドラマでは、主人公 陸一心 の二人の父親が大変大きな存在感を放っていました。一人は、中国人の父 陸徳志を演じた朱旭さん、そしてもう一人の父が、陸一心の実の父である松本耕次、演じたのが仲代達矢さんでした。最終回、長江をバックに、あの深い悲しみを湛えた実の父(仲代達矢)のまなざしを今もはっきりと思い出します。陸一心を演じた上川隆也さんも、二人の父親をわが師と語っていましたが、朱旭さんに続いて、仲代さんまで亡くなってしまいました。
さかのぼって、私が仲代達矢という俳優の存在を知ったのは、小学5年生の時でした。お正月から始まる大河ドラマ「新平家物語」で主人公平清盛を演じたのが仲代さんでした。初めて知る俳優さんでした。貴族社会で抑圧され、悶々と生きている清盛の若い頃を演じていた物語の序盤、あのぎょろっとした目の凄みをよく覚えています。そして、私はこの大河ドラマで「歴史」を好きになりました。だから、仲代さんは私に歴史の目を開かせてくれた恩人でもあるのです。
高校生の時、浜松の演劇鑑賞協会(通称 演鑑協)のポスターが、かつての高校館(北館)に貼られ、友人たちと「これ、見たい!」と盛り上がったのが、俳優座の「ジュリアス・シーザー」でした。仲代達矢さんがシーザーを、加藤剛さんがブルータスを演じるという、ぜいたく極まりない配役のポスターに魅了され、私は友人とともに「演鑑協」に入り、今はなき「浜松市民会館」(のちのはまホール)で「ジュリアス・シーザー」を見て圧倒されました。それから、高校3年のはじめまで演劇を見る生活が続きました。ですから、仲代さんは、私を演劇鑑賞の世界へと誘った張本人なのです。
清盛、シーザー、松本耕次…。私の人生の節目節目で、仲代さんが演じる人物が出没していました。ここまで、仲代さんの写真もなく、一方的に私の思い出を書きましたが、ふと気づきました!一枚、私と仲代さんの「2ショット」がある!
NHKの広報誌「ステラ」のエッセイコンテスト「ステラ大賞」に応募した私は、幸運なことに、その大賞をいただきました。賞金30万円とワープロ「文豪」がその時のご褒美!でも、もっと嬉しかったのは、自分の文章が認められたことでした。その文章が載った「ステラ」を今も大事に保存してあります。
「大河ドラマへのラブコール」と題した私のエッセイに仲代さんの平清盛の写真が挿入された、そのページこそが、私と仲代さんとの(勝手な)2ショットです。

仲代さんの舞台を、2年前、浜松で見ることができました。
老いてなおエネルギッシュに台詞を語り、圧倒的な存在感で舞台を務めあげた仲代さんの迫力。
今は、この舞台を見ることができた幸運をかみしめるばかりです。
来春、「大地の子」が初めて舞台化されます。仲代さんに見てもらいたかったなあ、とは、わが娘の呟き。私も同感です。
生徒の皆さんには、全然知らない俳優さんかもしれませんが、ここからぜひ仲代達矢という俳優さんの人生の偉業に触れていってもらえたら、と思います。
【追記】
午後9時のNHKニュースで、仲代さんの特集が組まれ、かなり詳しくその演劇人生を振り返ってくれた。「大地の子」当時の映像や、記者会見での発言、制作統括の河村さんの言葉など、NHKのニューススタッフが渾身の取材力で見せてくれたな、と嬉しかった。(「修行」が読めなかったアナウンサーには大反省してもらいたいけれども…。)

