10月のラストウィーク、図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」は、「食べ物特集」をお送りしました。
お気に入りの短歌はありましたか?
10月26日(月)
温かい緑茶と一緒に大福を食べれば口はくず湯を作る
島楓果

「緑茶」「大福」「くず湯」…寒さを感じる季節になったら、白板にこの短歌を書こう!と秘かに発表日を考えていた短歌です。
10月最終週とあって、朝晩には肌寒さが感じられましたね。温かいお茶がおいしい季節です。緑茶+大福=くず湯? 口の中で新たな味わいを感じている作者なのでしょう。
図書館の「木下龍也図書」のコーナーの歌集「すべてのものは優しさをもつ」より。
10月27日(火)
雨の朝りんごのジャムの瓶は冷えかつて引力を教えた果実
鈴木晴香

鈴木晴香さんの歌集「心がめあて」も、図書館の「木下龍也図書」にあります。
リンゴジャムの瓶が冷たい、そんな触覚を発端に、「そういえば、ニュートンが万有引力を発見したのも、リンゴがきっかけになったのだったな」と想像し、それが五七五七七になってしまうなんて、すごいですね。リンゴのジャムしかそこには歌われていないのに、朝食のテーブルや窓の外の景色までが目に浮かぶようです。
10月28日(水)
春雨のスープをあなたは混ぜているゆっくり銀河を創るみたいに
千草創一

春雨のスープを作っている「あなた」を、作者はどこかまぶしく感じているのでしょう。スープの調理中なのに、それが「銀河を創るみたい」に見える…。壮大なものを生み出すようなしぐさだと感じたのは、作者の「あなた」への愛ではないかしら。この短歌、「SF短歌」の本で出会った短歌です。
10月29日(木)
まるでピザ自身が走つてきたやうな生地にしつとり保たれし熱
田北明大

この短歌は、「短歌研究」2022年6月号の「短歌研究詠草」で特選となった5首のうちのひとつです。2022年と言えば、まだコロナ禍に翻弄されていたころですね。作者はピザの宅配を頼んだのですが、配達人はお客様との接触をしないように、ドア前にピザを置いて足早に去っていってしまう…。作者が会ったのは、人ではなく、ピザだけでした。
コロナ禍真っ最中の歌に久々に出会い、あの頃の窮屈さや不便さ、苦しさ、そして「ソーシャル・ディスタンス」という言葉などをいろいろ懐かしく思い出しました。
10月30日(金)
皿に盛るわれのコロッケその姿俵のかたち母よりの味
青柳啓子

コロッケを作る作者。出来上がったコロッケは、その俵型のかたちといい、味といい、母譲りであった、というのが、何とも家族の絆やぬくもりを感じさせますね。
こちらも、前日と同じ「短歌研究詠草」で出会った短歌です。コロッケが出来上がるまでがエッセイのように描かれた5首でした。
10月31日(土)
黒豆をしずかにしずかに煮たのちにしずかにしずかに砂糖に浸す
沖ななも

「しずかにしずかに」の繰り返しが、台所での一人の作業を思わせますね。黒豆を煮て、砂糖に浸す、その作業の過程が、とても神聖なものに感じられます。出来上がった黒豆は、さぞかし美しい出来栄えだったことでしょう。
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今日から11月。秋から冬への短歌をどうぞお楽しみに。

