母の詩

今日は母の日。
三好達治の詩に、『郷愁』という詩があります。
郷愁    三好達治
蝶のやうな私の郷愁!……。
蝶はいくつか籬(まがき)を越え、午後の街角に海を見る……。
私は壁に海を聴く……。私は本を閉ぢる。
私は壁に凭れる。隣りの部屋で二時が打つ。
「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。
――海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。
「母」という言葉からいつも連想する詩です。
漢字の「海」には「母」の字が含まれていて、
フランス語では、「母」がmere、「海」がmer。
確かに、母の中に海があります。
この詩を知った時、まだ10代前半でしたが、
素敵な偶然を感じました。
教員になって、中2の担任だった時、
「海」というテーマで貼り絵コンテストがありました。
貝殻のデザインの隅に、
この詩を加えてもらいましたっけ。
(第51回卒の2年藤組の皆様、覚えているかしら?)
三好達治には、「乳母車」という詩もありますね。
これは、自分が高校生の時、教科書にありました。
鈴木稔先生の授業で教わりました。
乳母車    三好達治
母よ――
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり
時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕陽にむかつて
りんりん(※りんの字は「車+隣のつくり」+々)と私の乳母車を押せ
赤い総(ふさ)ある天鵞絨(びろおど)の帽子を
つめたき額にかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり
淡くかなしきもののふる
紫陽花いろのもののふる道
母よ 私は知つてゐる
この道は遠く遠くはてしない道
哀切な調べの詩ですが、教わった当時、感傷的になれなかった10代の我々は、
「びろおどの帽子をかむらせよ」のフレーズが気に入って、当番日誌に書いたりしましたっけ。
懐かしい思い出です。
母の日に寄せて、全てのお母様への感謝を込め、ちょっとずっこけた思い出も添えて、二つの詩を紹介させていただきました。
今日、詩人の長田弘氏の訃報が。
彼の詩や言葉についても、またいつか触れたいと思います。

我が家にもバラが咲きました。
※二つの詩は、青空文庫さんより引用させていただきました。