弾丸日帰り列車旅!

  ふらんすへ行きたしと思へども
  ふらんすはあまりに遠し
  せめては新しき背広をきて
  きままなる旅にいでてみん。
かつて萩原朔太郎はこんな詩を残しました。
この夏、絶対行きたい!と思ったところが2ヶ所、
いいえ、本当は3ヶ所ありました。
そのうち一つは豊橋市美術博物館でアンドリューワイエスの絵を見ること。
これは、「山の日」にかないました。
あと2つ行きたかったのは、
岩手県花巻市の田舎にある高村光太郎記念館と、
長野県安曇野市の碌山(ろくざん)美術館です。
今年は高村光太郎没後60年、そして奥様の高村智恵子生誕130年という年で、
花巻の光太郎記念館がリニューアルし、
智恵子の紙絵が11月まで企画展として展示されているのです。
毎日臨時バスが出ます、と記念館のツイッターもささやいています。
とはいえ、
 花巻に行きたしと思へども
 花巻はあまりに遠し
ですよね。
日帰りではとても行けません。
で、
 せめては新しきワンピースを着て
 きままなる旅にいでてみん。
ということで、あと一つの安曇野へ絶対行くぞ!と心に誓ったわけです。
しかし、安曇野だって近い場所ではありません。
何年か前に乙女の会バスツアーで訪ねた時も、運転手さん2名の態勢での日帰りでした。
しかも、バスだと乗っていれば連れてっていただけるという、極めて気楽な旅ですが、
列車で行くとなると、果たして日帰りはできるのか、
何線に乗って、どこで降りればいいのか、
そこからどうやって美術館まで行くのか等々、
まじめに計画を立てないといけません。
「きままなる旅」じゃないじゃん!
娘が行きたいと言ってくれたので、
東京と浜松からそれぞれ出発し、
現地集合・現地解散することになりました。
現地、碌山美術館の最寄り駅はJR大糸線の穂高という駅です。
こちらは、名古屋から特急しなのに乗り換え、穂高駅へ。
娘は10分早く到着することになりました。
帰りは松本で19時台の特急に乗れば、お互い22時までに帰れることが分かりました。
中野町のお祭りで帰省した娘と短時間で打ち合わせをしたのち、
お互いにJR指定券を買ったりなんだりと、全然「きままなる旅」じゃない準備に奔走。
台風の心配をしつつも、何とか当日を迎え、
バッグには日傘と雨傘両方準備して、
カメラのバッテリーとタブレットの充電を済ませ、
かくして「弾丸日帰り列車旅」と相成りました。
名古屋からの特急しなの、
車窓からは、青い空と白い雲、そして山の緑、田んぼの黄金色が広がっており、日本の贅沢な風景を全身で満喫しながら「穂高」を目指しました。

一人旅ならではの贅沢な時間!
車窓を楽しみ、読書も楽しんで、
「きままなる旅」な気がしてきました!

そして、11時過ぎ、「穂高」の駅に着きました。
駅からすぐの碌山美術館は、こんな素敵な建物です。

なぜここに来たかったのか、というと…、
それは今回こういう企画展を行っていたからなのです。

花巻は遠いけれど、安曇野なら来られる!
…そんな思いで光太郎・智恵子に会いに来たのでした。
碌山美術館は、彫刻家で若くして世を去った荻原守衛(碌山)の作品を中心に、彼と親交のあった光太郎などの作品も所蔵、展示しています。
私は、大学時代の専攻が近代詩で、高村光太郎の詩が研究対象でしたので、彼の詩や書簡から荻原守衛を知りました。
が、彫刻家としての荻原守衛の才能や作品を知ることもなく、
彼の死を光太郎が詩で悼んだことぐらいしか興味を持ちませんでした。
今思えば、もったいなく、情けない話です…。
美術館の一角には、守衛の死を歌った光太郎の詩碑もありました。

「新しき背広」ならぬ「新しきワンピース」で・・・。
木陰の詩碑には、光太郎の筆跡で、「高村光太郎」の文字も見えます。

守衛の短い一生をたどりながら、彼の力強い彫刻作品を間近で見ることができました。
彫刻には、絵画とは違う臨場感・迫力があります。
守衛がキリスト教徒だったこともあって、教会を思わせる素敵な建造物がここにあるのだということ、
そのためにはたくさんの人々が尽力し、美術館を作ったのであろうことも、心に迫りました。

緑あふれる空間にいると、そこが真夏の日本であることも忘れそうです。
母子二人は思い思いに建物や庭の写真を撮りました。
冷たい水の中にスイカも切って冷やしてあって、「ご自由にどうぞ」とありました。
夏から秋の草花も咲き乱れ、心づくしが感じられる素敵な場所です。
そして、企画展の建物へと進みました。

光太郎の「手」「柘榴」「文鳥」「鯰」「桃」…私にとっては懐かしい彫刻作品との再会。
そして、精神疾患を抱えた智恵子の紙絵の数々。
心ゆくまで堪能できました。
十和田湖に建つ「乙女の像」の製作の様子を伝える映像も上映されていて、
光太郎の生前の姿がみられただけでもうれしいのに、
自分の体よりも大きな彫刻(しかも、それは妻の智恵子の再現です)に挑む晩年の光太郎の力強さが画面から伝わり、感無量でした。
静謐な空間で大好きな芸術家と対峙できる幸せ。
何とも贅沢な旅をすることができました。

駅と美術館を結ぶ線路沿いの小道には、真夏の日を浴びてムクゲの花が天に向かって咲き誇っていました。
町全体が端正で小綺麗な印象。
水が勢い良く流れているのも、爽やかです。
穂高は登山客でにぎわう駅でもあります。
駅前のお蕎麦屋さんにも山男がたくさんいました。
帰りの列車にも大きなリュックの登山服の方々が元気そうに笑っていました。
夏の信州は、自然も芸術も魅力がいっぱいなのですね。
周遊バスを使って、大王わさび園と安曇野ちひろ美術館を訪ねました。

わさび田の上に広がる空。
わさび園も、そして空も、広かった…。

ちひろ美術館では、カフェの窓から虹を見つけることができました。
トットちゃんの展示もあり、外にはトットちゃんの広場も完成していて、
ちひろ美術館は小さな子供も一緒に幸せを感じられる場所でした。
「まどぎわのトットちゃん」もう一度読まなくちゃ。
娘と松本で別れ、帰りも一人列車旅です。
読書と睡眠、のんびりできました。
「弾丸」をちょっと恨めしく思い、一泊したいなあと後ろ髪引かれはしましたが、
台風も迫っていたので、結果的に日帰りが正解でした。
雨にも降られず信州の一日を堪能でき、
娘との会話も弾んで、今夏の素敵な思い出ができました。

美術館巡りの思い出の品々。
21日に載せた写真は、車窓にタブレットを立ててカシャッと撮ったものですが、偶然農夫と思しき人物が入った写真となり、何だかワイエスの世界みたいだなあと勝手に感動しておりました。
調子に乗って、再掲(笑)↓

以上、「弾丸日帰り列車旅」、最後までお読みくださり、ありがとうございました!