小さな白板 第32週

図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、12月6日(月)~11日(土)までを振り返ります。

12月6日(月)  関西の「来はる」も伊予の「来なはる」も優しき大和言葉のひびき   高野公彦

高野公彦さんの『水の自画像』から一首。言葉をとても大事にする高野さんの短歌には、この方言のように、大和言葉や文語、歴史的仮名遣いなどの美しさを再認識させられます。便利になって、略語やカタカナ言葉、流行語などの楽な言葉を使い慣れてしまったときに、人は大事なものをなくしてしまうのかもしれない、とはっとさせられました。皆さんの好きな大和言葉は何ですか?

12月7日(火)  向かい風に向かい歩けば服を風がはだける もっと来いもっと   谷村はるか

私は、こうした人の意志の強さを感じる短歌が好きです。この谷村さんの短歌に、「冬よ 僕に来い 僕に来い」と歌った高村光太郎の「冬が来た」が重なりました。

12月8日(水)  乗り換え駅 帰り道ではポスターが朝より生き生きして見えること   永井祐

生徒の皆さんの登下校の際、目に映る風景にはこんな気づきもあるのかな、と想像しながら、この歌を書きました。登校の時と下校する時、同じ場所を通りながら、見える景色に何か違いを感じることはありますか? この歌の作者永井祐さんには、朝より夕方が同じポスターでも生き生きして見えるということは、仕事からの解放感の表れでしょうか。私は帰り道の方が疲れてしまっていますが…。

12月9日(木) 街が時計のやうにしづかだ駅ビルの窓からうごくひとを見てゐる   西巻 真

高いビルの窓や展望エレベーターから下を見る時、そこには音のない街が広がっています。その人の心が明るければ活気のある街に見えるでしょうし、心が寂しい時には孤独な街に見えるのでしょう。西巻真さんの「ダスビダーニャ」には、孤独や哀しさを感じる短歌が詰まっていました。でもそれは、作者が優しい心を持っているからなのだと思いました。

12月10日(金)  真珠にも雪の粒にも核はある人の哀しき頑なさにも   八木博信

動かせぬ「核」の存在を、真珠や雪にも、人々の心のなかにも感じている…。頑(かたく)なな心をあたたかく溶かすことは無理なのでしょうか。

12月11日(土) 
   〈生まれたらそこがふるさと〉うつくしき語彙にくるしみ閉じゆく絵本   李正子

人権と読書についての講堂朝会を行いましたので、そこで紹介した『はじめて出会う短歌100』からこの歌を選びました。講堂朝会の中で紹介した2首だけでなく、短歌の中には、生きにくい世の中で心の叫びを歌ったものがたくさんあります。作者が苦しく思いながら絵本を閉じた気持ちを、「どうしてだろう。背景に何があるのかな」と想像できる人になりたい。それは、同じく昨日紹介したサヘル・ローズさんの本「支える、支えられる、支え合う」のメッセージでもあります。

☆  ☆  ☆

11日(土)と12日(日)の学園と我が家の紅葉と夜景です。

【おまけ】今夜12日(日)23:30~NHKのEテレ「サイエンスZERO」でノーベル物理学賞が取り上げられます。先週はシジュウカラでした。卒業生が番組スタッフだということもあって、この頃、「サイエンスZERO」が面白くてはまってます! 「青天を衝け」「日本沈没」そして「サイエンスZERO」…日曜の夜が忙しいです。
※【訂正】「サイエンスZERO」の番組名を「サイエンス・アイ」などと誤記しておりました!すみません!