茨木のり子さんの記事を読んで

西遠には、「西遠生にすすめる本」という推薦図書があります。西遠に学ぶ6年間のうちに読んでほしい本として先生方や先輩方が推薦した本を、冊数上限を決めずに一覧にしてまとめたものです。2021年度の「西遠生にすすめる本」は数字&アイウエオ順に並べると、「14歳の哲学」(池田晶子著)から「わたしはマララ」(マララ・ユスフザイ著)まで、実に全480冊に上ります。

その膨大な推薦本の中に、詩人の茨木のり子さんの本が3冊あります。岩波ジュニア新書の「詩の心を読む」と、詩集「倚りかからず」、そして「現代の詩人7 茨木のり子」です。茨木さんの詩は、教科書にも登場することも多く、生徒にはなじみ深い詩人のひとりかもしれません。中高生だけでなく、彼女の詩のファンは多く存在します。特に「自分の感受性ぐらい」という詩は「 自分の感受性くらい / 自分で守れ /ばかものよ 」と強い言葉で締めくくられており、ぎくりとする人が多いのです。

昨年、朝日俳壇にて、こんな俳句と出会いました。

秋ともし ばかものよと 詩に叱らるる 瀧上裕幸(2021年12月12日朝日俳壇掲載)

秋の夜の澄明な灯火の下で作者が読んだ本は、茨木のり子さんの詩集だったのですね。その詩「自分の感受性ぐらい」に出会ったとき、自身が「ばかもの!」と叱られたように思われたのでしょう。私も茨木さんの詩を読んでいると、叱られた子供状態になります。瀧上さんの俳句を見つけて、「あ、お仲間がいた!」と、とても共感してしまいました。

そんな茨木のり子さんの隠されたお仕事と交流が、年末にウェブ上に公開されたある記事に書かれていました。NHKのHPに掲載された「人生を変える“言葉” 韓国で出会った茨木のり子」という記事です。記事を書いたのは、ソウル支局 チーフ・プロデューサー 長野圭吾さんという方でした、

記事には、茨木さんが50歳を過ぎてからハングル語を習得し、韓国の詩を翻訳していたということが紹介されていました。そこには、韓国の女性詩人ホン・ユンスク(洪允淑)さんとの交流がありました。著者の長野さんは、6年前に亡くなったホンさんが遺していた茨木さんからの手紙を取材し、二人の心の交流が日韓の歴史の壁を越えたことを紹介しています。茨木さんが実践したその生き方が、韓国の詩人の詩を日本に運び、また、現在、韓国にも茨木さんの詩を読む人々を増やしているのです。今まで知らなかった茨木のり子さんの横顔を見ることができました。

年末にこの記事を読んだことがきっかけで、私は12月30日に「世界の中で生きていくために」を書きました。 この記事の茨木さんの生き方に触発されたのでした。

今年も「小さな白板」で詩や短歌、短い散文などを紹介していくつもりです。そのためにも、私自身が新旧の詩や短歌、俳句、著作に出会いたいと思っています。茨木のり子さんを読み直すことも、新年の私の課題になりました。