小さな白板2024 第4週

テスト週間だった2024年第4週の「小さな白板(ホワイトボード)」を振り返ります。寒い一週間でした。

1月22日(月)
幼子をコートの奥に仕舞い込み有袋類となる大寒の朝
      長橋敦

「大寒」が休日だったので、ちょっと遅れて紹介したこの短歌。お子さんを抱っこひもで抱いた上にコートを着込んだお父さん、自分がまるでカンガルーにでもなったような気持ちになったのでしょうか。「有袋類となる大寒の朝」という表現に、お父さんの愛情を感じました。朝日歌壇2023年2月26日に掲載された短歌です。

1月23日(火)
予想できない未来のように不規則に転がるラグビーボール目で追う
      小坂井大輔

火曜日、西遠の記念グラウンドでラグビー教室が行われています。バレーやバスケ、陸上にテニスなどの部活生たちも、今までなじみのなかったラグビーボールに触れる機会が増えてきました。不規則に転がるボールだからこそ面白い、とラグビーの魅力がよく語られますが、作者はそこに「予想できない未来」を連想しています。スポーツは時に哲学的でもあります。

1月24日(水)
私たちテストとテストにはさまれているけど自由わた雲のように
      松田梨子

1月定期テストが終わったこの日、次の実力テスト(2月14日)が早くも意識されるわけですが、そんな「テストとテストにはさまれて」いる中高生の皆さんに、「私たちはわた雲のように自由」と先輩高校生が約10年前にエールを贈ってくれていますよ。朝日歌壇2013年6月24日に掲載された短歌です。

1月25日(木)
ガザはガーゼの語源と知りてかなしみのいや増す街よ破壊のつづく
      関口光子

今年2024年1月14日に「朝日歌壇」に掲載された短歌です。破壊のつづくガザ地区の惨状は目を覆わんばかりです。ガザはガーゼの語源だったのですね。

ガーゼとは目の粗い織物を指すドイツ語で、その歴史は古く、語源は諸説ありますが、中東のガザ(GAZA)地区特産の透けるような薄い織物であったと言われています。

内野株式会社ホームページ「タオルの知識」より「ガーゼ」の項

人命を救うための医療用具であるガーゼ。その語源となった街が今破壊し尽くされています。何とか戦闘や破壊を停めることはできないのか。人種や宗教、その歴史や国の成り立ちで、各国の取る立場が問題を複雑にしていますが、こんな殺戮(りく)があって良い訳はないという「人道」の原点に立ち返ってほしいと切に切に思います。

1月26日(金)
熊楠にも富太郎にも賢明な妻居りしこと歴史は刻め
      長澤ちづ

南方熊楠(みなかた くまくす)は、博物学者・生物学者・民俗学者として有名です。牧野富太郎は、朝ドラ「らんまん」のモデルにもなりましたね。夫婦の絆が朝ドラのテーマの一つでもありましたから、昨年は誰もが牧野富太郎の妻に注目したでしょう。ドラマ中には熊楠の存在も登場しましたね。
熊楠にも富太郎にも賢明な妻がいたことを「歴史は刻め」という作者の言葉は、偉人と言われる人物の偉業は決して一人でなしえたのではなく、家族の支えがあったからこそなのだと、歴史の陰にいる「女性」に注目したものでした。翌日の「女性の生き方を考える弁論大会」へのはなむけ的な思いを込めて書いた短歌です。

1月27日(土)
吐く息でまつげが濡れる土曜日にわづかに犬の鳴く声がする
      初谷むい

吐く息でまつげが濡れたり凍ったりするほどの寒さを、浜松の人間はほとんど味わいませんが、冬の歌として皆さんに紹介したいと思い、土曜の白板に登場してもらいました。西遠を卒業して、様々な土地に旅立つ生徒たちの中には、雪深い地域や凍える冬を体験する人もいることでしょう。まだ見ぬ土地での生活、何が待っているのでしょうか。高3生の受験での活躍を祈りつつ、4月からの新生活を楽しみにしてほしいという思いでいます。

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今朝の朝日歌壇に、昨年12月17日に亡くなった錣山親方(寺尾)への追悼の短歌が2つ載っていました。

悔しくて土俵に「さがり」を叩きつけいつも寺尾は輝いていた
       麻生 孝


阿炎(あび)が泣く子どものように阿炎が泣く師匠寺尾に別れを告げて
       水野一也

昨日、阿炎が土俵際の大逆転で勝って、師匠なき初場所で勝ち越しました。テレビで観戦しながら、きっと寺尾が応援していてくれたんだろうなあと思ったら、泣けてきました。でも、寺尾はきっと「そんな危なっかしい勝ち方するな」と弟子に怒ることも忘れないだろうな、なんて思いながら、阿炎の勝ち越しがとても嬉しかったです。一夜明け、朝日新聞には、「師匠への勝ち越しの報告は場所後にする、最後までしっかり取れと言うと思うから」という天国の師匠に向けた阿炎の言葉も載っていました。その記事を読んだ後に、「朝日歌壇」で上の2つの短歌を見つけたので、またまた泣けて…、朝から新聞読んで涙を何度もぬぐったオオバでありました。