シルバーウィークに突入した第37週の「小さな白板(ホワイトボード)」は、初めて1週間同じ作者の作品を紹介しました。「短歌研究」2026年5+6月号に掲載されていた紺野万里さんの連作「陸の国境」です。7首の中から6日間で6首を書きました。


「短歌研究」2026年5+6月号は、300人歌人が新作7首を載せ、幾人かはエッセイを載せるという特集が組まれています。全体テーマは「短歌・ハズ・ノー・ボーダーズ」となっており、300人の歌人の皆さんが「壁」「障壁」「ボーダー」をテーマに、様々な発想で短歌、そしてエッセイを発表していらっしゃいます。とても読み応えがあり、考えさせられる短歌ばかりで、今までも白板でこの中からたくさんの短歌を紹介しました。その中でも特に心に残った紺野万里さんの「陸の国境」は、ぜひまとめて紹介したいと思い、第1首の「初秋」という言葉が似合う季節まで紹介を待っておりました。そして、先週のブログに珍しく予告を出し、「9月14日からの一週間は、同じ歌人の連作を6日間紹介しようと思います。キーワードは『茶道』。どうぞお楽しみに。」と書きました。
そこで、今日はいつもの一日一首ずつの紹介とは趣向を変え、まとめて紹介しますね。
9月14日(月)
ささやかな茶会を開きぬラトビアの国際作家の家の初秋に
9月15日(火)
お抹茶に雪結晶の和三盆 日本の味と日本の象を
9月16日(水)
膝前に置いた扇子は「ケッカイ」で国境(ボーダー)なのだと説明をする
9月17日(木)
一本の扇子を置いてお互ひを尊重すること侵すことなく
9月18日(金)
抹茶より扇子の話が響いたと陸の国境もつ欧州人は
9月19日(土)
ラトビアの友は無事らしベラルーシ、ポーランドには連絡つかず
紺野万里(短歌研究2026年5・6月号「陸の国境」より)






最初の短歌、海外での穏やかな日本文化紹介のイベントのように感じられ、そうか、作者はラトビアでお茶会を催したんだな、素敵な国際交流だな、と思いました。
実は、7首のうち、2首目を泣く泣くカットして、6首紹介したのです。2首目はこうあります。
ひと月の滞在制作終へるとき自国の味でもてなす習ひ
和三盆の茶菓子も、「自国の味でもてなす」という作者の感謝の思いが込められているのです。
茶道の所作の中で、扇子を置く意味に触れ、「結界」「国境」と説明する作者に、欧州の人々は興味を持たれたのでしょう。陸の国境を持つヨーロッパの人々ならではの感慨があるのだろうと思います。
しかし、作者の一番の想いは7首目にあったのではないでしょうか。
最後の短歌は、茶会に参加した人々と消息が取れない、現在の国際情勢を歌っています。ウクライナへのロシアの侵攻が始まり、一気に世界情勢が動き、こうした人々との交流が叶わなくなってしまったのです。胸が詰まりました。今頃彼らはどうしているのだろう。会ったこともない人たちなのに、心が騒ぎます。

ほのぼのとした国際交流の茶会から、今の世界情勢へ。「陸の国境」7首の鮮やかな流れの中で、深く考えさせられ、短歌という文学の力を改めて感じました。

