学びの土台となる「読む力」を育てる ― RSTから考える授業改善

本校では、夏休み前の7/23に、国立情報学研究所 社会共有知研究センター長の新井紀子先生をお迎えし、リーディングスキルテスト(RST)の結果をもとに、「教科書を正確に読み解く力」とこれからの授業づくりについて教員研修を行いました。

子どもたちを取り巻く学びの環境は、この数年で大きく変化しています。スマートフォンやSNSの利用は低年齢化し、短い文章や動画を次々と切り替えて情報を得ることが日常になりました。また、小学校段階においても、生活習慣や家庭学習のあり方、鉛筆で書くことや教科書を丁寧に読むことに費やす時間などに変化が見られます。さらに今後は、生成AIが調べものや文章作成、要約などを身近に支援するようになり、「自分で文章を読み、考え、意味を組み立てる」という学習の過程そのものが、これまで以上に意識されなければならない時代を迎えています。

本校では長年、中学1年生・高校1年生を中心にRSTを実施し、生徒の読解力を継続的に把握しています。今回の研修では、これまで蓄積してきたデータを新井先生に分析していただき、本校の生徒の「読む力」がどのように変化しているのか、また、その変化に応じて授業をどのように改善していく必要があるのかについて具体的にご助言いただきました。

新井先生は、RSTを「読みに関する健康診断」と表現されました。知識量を測る試験ではなく、文章に書かれている内容を正確に読み取り、条件や関係性、定義、図表などを理解できているかを確認するものです。

例えば、一つの文章に複数の条件が示されている場合、それらすべてを満たすものを判断することや、文章と図・グラフ・地図などの情報を結び付けて理解することは、私たちが想像する以上に高度な読解を必要とします。数学や理科、社会などでは、こうした力が十分でなければ、知識そのものを学ぶ以前に「問題文や教科書の意味を理解するところ」でつまずいてしまいます。

今回、本校の過去7年間のRSTデータを比較したところ、RSTは入学試験や外部模試と高い相関があることだけでなく、入学時点での生徒の読解力にも変化が見られることが示され、従来と同じ説明や授業方法を続けるだけでは、生徒が十分に内容を理解できない可能性を示唆していただきました。

本校中学では、昨年より「リーディングスキルノート」を活用した「読解マスター」という取り組みを進めています。教科書の文章を音読し、視写し、内容を確認することで、正確に読む力と書く力、さらに教科特有の語彙を身につけていく活動です。その結果、半年で視写する力が高くなることが確認され、課題に素早く集中する力も養われていることが伺われました。

新井先生からは、この活動では国語だけでなく、数学・理科・社会などの教科書を積極的に使うことが重要であるとのお話がありました。

例えば、「何々を○○という」と書かれた定義文を見つけて線を引く、文章中の「これ」「その」が何を指しているかを確認する、グラフや地図、年表、数式などと本文を照らし合わせる、といった読み方です。こうしたことを一つひとつ丁寧に指導することが、中学校・高校での学びの土台になります。

また、授業の冒頭に数分間の確認問題を行い、前回学習した内容を思い出してから新しい学習に入ることや、重要な用語を繰り返し音読・筆記することも提案していただきました。

基礎的な計算や教科書を開く、板書を書く、必要な箇所を見つけるといった学習行動を円滑にすることも重要です。こうした基本的な技能に多くの力を使ってしまうと、本来考えるべき課題に十分な力を使うことができません。基礎的な学習習慣を整えることは、より高度な思考を支えるための大切な準備でもあります。

研修の最後には、教科書を読むという身近な行為そのものを、教員自身が改めて捉え直す機会となりました。

教科書には文章だけでなく、写真、図、グラフ、表、地図、年表、数式、模式図など、さまざまな情報が含まれています。それぞれの教科には、それぞれの「読み方」があります。教員にとっては当たり前に見える表現も、生徒にとっては初めて出会うものかもしれません。

今回の研修は、目の前の生徒の姿に合わせて、私たち自身の授業を見直す大切な機会となりました。

文責:岡本 忍