懐かしい本のお話 その1

懐かしい本のお話を書いてみようというきっかけは7月24日でした。「岩波書店」さんのツイッターが、7月24日に「今日はアメリカの小説家ジーン・ウェブスターの誕生日」と呟いたのです。この呟きが、私の少女時代の読書遍歴を脳裏によみがえらせました。

この岩波書店さんのツイッターをきっかけに、「懐かしい本のお話」シリーズを始めよう!と思い立ったというわけです。

60年の間に、実に様々な本に出会ってきましたが、それらの本の何十冊かは今も我が家にあって、ひょんなところで再会します。子育ての最中に見つけ出して、子どもたちに読み聞かせした本もあれば、物置から発見してあまりの古さに驚いた本もあります。その一冊一冊に、とても捨てることのできない、私と私の家族の歴史があります。

今日は、私の小学生時代を彩ってくれた2冊の本を紹介しましょう。それは、冒頭の「あしながおじさん」と、西遠生の必読図書「若草物語」の2冊です。

「若草物語」 オルコット

「若草物語」と出会ったのは、小学3年生の頃だったと記憶しています。

この偕成社版・児童名作全集には 小学生時代何冊お世話になったことでしょう。私の家の近くに本屋さんがあったので、お小遣いをもらうとすぐに本屋さんに出かけ、この全集の前に陣取って、どの本を買おうか迷いに迷っていたのが、私の小学生時代の「放課後の日課」みたいなものでした。棚から出せば、この絵のように、鮮やかな色の魅力的な表紙がパァーっと私の前に広がります。巻末のラインナップを見ると、「アルプスの少女」も「小公女ものがたり」も「アンクル・トム」も「八犬伝ものがたり」も、「リヤ王ものがたり」も、このシリーズで読んだのだなあ…と懐かしく思い出されます。偕成社さん、素敵なシリーズをありがとうございました。

さて、私が初めて手に取った「若草ものがたり」の初めには『このものがたりをおよみになるみなさんは、きっと自分が四人きょうだいのだれかに、にているようなきがするでしょう』と編著者である山主敏子さんの言葉が書かれています。ひらがなばかりの大きな活字や、途中に挟み込まれた挿し絵に、小学生への優しい配慮が感じられます。私は、次女のジョーに思い入れし、あこがれながら読み進めました。口は悪いし、お行儀も悪くて、叱られてばかりのジョーですが、想像力豊かで、突破力があって、私にはたいそう「かっこいい女性」に思えたのでした。

小学4年生の頃、私は歯の矯正のために毎週末バスで街なかの歯医者さんに通っていました。歯医者さんへは、松菱劇場という映画館の前を通ります。ある時、「若草物語」と「ハムレット」がリバイバル上映されていました。私は初めて「大人の映画」を見たいと親に頼み込みました。今、中学1年生の皆さんが「映画鑑賞」で見ている「若草物語」の映画は、それと同じものです。もっとも、期待した「若草物語」に先立って上映された「ハムレット」(ローレンス・オリビエ主演)で毒殺シーンがあったため、自分が映画を見ながら食べていた「栗ぼうろ」に毒が入っているのではないかという妄想が広がって、次の「若草物語」を心底楽しむことができなかった、という苦い思い出もあるのです…。(幸い、栗ぼうろには毒は入っていませんでした!当たり前ですが。笑)

小学6年になった頃、児童書を卒業した私は、文庫本の「若草物語」に挑戦しました。オルコットが英語で書いたその原作が丁寧に翻訳された本を手に取り、私は、児童書で親しんだストーリーが深く掘り下げられていることに感激しました。字は小さくなったし、挿し絵も全然ないけれど、児童書で入門したストーリーと映画の名場面たちのおかげで、4人姉妹の性格もエピソードも生き生きしていて、本当に面白く読むことができました。なかでもジョーへのあこがれは募るばかり。その頃、6年3組では「劇大会」が定期的に行われており、私はジョーよろしく、いつも脚本を担当していたのでした。ジョーが教えてくれた世界です。

中高時代、思春期の感受性激しい頃には、タオル一枚持って「若草物語」をベッドに寝っ転がりながら読んでは、笑い泣きしていた想い出(タオルは涙用)があります。高2で手に入れた「続若草物語」にはベスの死も描かれていて、ジョーがかわいそうで、もっともっと泣き、タオルは大忙しでした。

私にとって「若草物語」は、あこがれの女性像と、脚本家や小説家への夢と、そして泣き笑いの感受性を育ててくれた、大切な宝物の一冊です。

「あしながおじさん」 ウェブスター

「あしながおじさん」も、最初は児童書で読みました。孤児院育ちでも、あしながおじさんのおかげで大学に行き、ハツラツと生きるジュディ。おとぎ話のような展開に心躍らせました。そして、最後のなぞ解き「あしながおじさんは誰だったのか」に、「え?うそ…」とかなり戸惑いました。

小学6年生、この本も、文庫本で読もうと思い立ち、近くの本屋さんで文庫本を購入しました。児童書のストーリーを頼りに読み始めようと思ったのですが、なんと本文は全部手紙!ジュディがあしながおじさんに送る手紙だけで、物語が成り立っているのです。私は、驚きはしましたが、ジュディの書く手紙がとても面白くて楽しくて、ジュディの挿し絵もかわいくて(冒頭の岩波書店さんの本の写真の挿絵もそうです。もちろん作者のウェブスターが挿し絵も書いたのですが)、その躍動するような手紙の束にすっかり魅せられ、私はすぐさまこの本のとりこになりました。

私が「手紙魔」になったのは、間違いなくジュディの影響です。ジュディ・アボットと、「あしながおじさん」完訳本に出会わなければ、手紙を楽しく書こうなんて思わなかったかもしれません。大学時代、一週間と空けず、家に手紙を書いていました。友人にもよく手紙を出していました。携帯電話もメールもない時代です。友人や家族への手紙は、一人暮らしの楽しい連絡手段でした。

「あしながおじさん」は、私を「手紙」の世界に誘ってくれた大事なきっかけの本なのです。

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「懐かしい本のお話」、また更新しますので、どうぞお付き合いください。