小さな白板2023 第43週

暦の上ではとっくに冬。「食欲の秋」には間に合いませんでしたが、今週の「小さな白板」は食べ物シリーズにしました。あったかいお鍋をはじめとして、食事の時間は元気が出る! 食欲は大事ですよね。様々な食べ物の短歌を集めてみました。

11月20日(月)
夕膳の豆乳鍋の湯けむりに椎茸舞茸榎茸泳ぐ
      碇 弘毅

週の最初はお鍋のキノコたち。お鍋の材料のシイタケ、マイタケ、エノキダケが全部漢字で書かれ、全体的にも漢字の多い短歌です。夕膳、豆乳鍋、湯、椎茸、舞茸、榎茸。漢字の格式ばった雰囲気と言いますか、豆乳鍋の中で泳ぐ「茸」たちまで由緒正しい風格を感じさせる短歌です。
そんな目で今夜のお鍋の具を観察してみてください。味が変わるかも!

11月21日(火)
レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる
     戸田響子

なんというか、おっかない短歌ですね(笑)。レーズンパンを前にして、フッフッフと不敵に笑う魔女を想像させます。あ、でも、「ちょっと待って、たかがレーズン取り除くだけじゃないですか~」とツッコミを入れたくなりますよね。小さな秘かな野望がユーモアたっぷりに描かれていますね。昔、レーズンが苦手だった私は、実際にレーズンパンから全部レーズンをほじり出した過去があります。その時には「食べれません、ごめんなさーい」という後ろめたさもありました。この短歌の明るさに昔の私が救われたような気がします。その後、レーズンのおいしさを知りました。今はレーズンパン、好きですよ!

11月22日(水)
啄木とたわむれし蟹 伊勢海老に転生果たしわれに食われる
     笹公人

イセエビを食する作者の想像力のたくましさ! このイセエビは、かの石川啄木と戯れたカニが転生…? 
もちろんこの短歌は、石川啄木の次の短歌があってこそ生まれた一首です。
  東海の小島の磯の白砂に
  われ泣きぬれて
  蟹とたはむる
かつて悩める歌人石川啄木の涙をその甲羅にも落とされたであろう一匹の蟹を、感傷的にではなく、転生→食べちゃうという発想が豪快で、でも作者もまた何か悩みを持っているのかもしれないな、それを食べるという行為で乗り越えているのかなと思いました。

11月24日(金)
プラスチックのパックぱんぱんの焼きそばを両手で持って運ぶたのしさ
     山下翔

すっかり寒くなりました。屋台の焼きそばがプラスチックパックからはみ出そうになるぐらいぱんぱんに入っている、その熱を感じながら運ぶ、幸せな瞬間を想像します。作者は一人じゃなくて、きっと誰かと食べるんだろうなあ、と想像しました。
24日はロングディスタンスウォークで図書館が閉まっていましたので、急遽、職員室前にこのホワイトボードを飾りました。ですから、この日だけ「職員室前の小さな白板」でありました(笑)。

以上、食欲をそそるかなと思う短歌4種を今週は特集しました! 来週で11月も終わりですね。真冬並みの換気が日本列島を覆っています。皆様、お元気で週末をお過ごしください。