今年心に残った本たち

今年もあと少しで終わろうとしています。読書量も少ない私ですが、今年心に残った本をご紹介します。

「アボカドの種」俵 万智 著

1冊目は、俵万智さんの最新歌集「アボカドの種」です。短歌に親しむようになってまだ数年のオオバですが、俵万智さんの「未来のサイズ」に感動してから、俵さんの世界がとっても知りたくなりました。今年、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で俵さんの日々を垣間見られたことがとても嬉しかったですが、その日々でさえも、俵さんはどんどん短歌にしてしまうのですね。「アボカドの種」のページをめくりながら、「プロフェッショナルの取材の裏側や、取材が終わった後のシーンとした雰囲気まで、読む者の心に伝わってきました。散文を読んでいるかのようにスーッと心に入ってくるこの清々しさ!歌集ということを意識しないで読み進む感じが、本当に新鮮でした。
この歌集から、来年もたくさん「小さな白板」に俵さんの短歌を紹介したいと思います。

「祖母姫、ロンドンへ行く!」椹野 道流 著

2冊目は、やっぱり「祖母ロン」つまり「祖母姫、ロンドンへ行く!」です。今日も、お友達に紹介しちゃいました。
椹野道流(ふしのみちる)さんとおばあさまのロンドン旅行は、ハプニング満載で面白く、おばあちゃまのお姫様ぶりが若き著者を翻弄しつつも、読者は時に苦笑しながら、その魅力的なおばあちゃまのとりこになっていくのです。おばあちゃまにかかれば、大映博物館は「死んだものばかりで興味ないわ」、ロンドン塔は「どうして囚人のいたところに行くの?」ですから、通り一遍のロンドン観光で済まそうとする著者の魂胆は滞在初日からもろくも崩れます。その一方、アフタヌーンティは味わいたいし、三越にも行きたい、そんな彼女の希望をかなえようと、著者から相談を受けたホテルのスタッフたちが献身的に働いてくれます。イギリスのホテルマンたちのおもてなし精神に感服し、その献身ぶりが実は著者自身をも感激させることになるくだりでは、涙が出てきてしまいます。特に、ティム!この本を読むと、誰もがティムのファンになるようです。この本をきっかけに、椹野ワールドを堪能する旅が始まりました。彼女が書いているwebの「ステキブンゲイ」の「晴耕雨読に猫とめし」もオススメです。

「やさしい猫」 中島 京子 著

3冊目は、テレビドラマが契機になってどうしても原作を読みたいと思い購入した本「やさしい猫」です。スリランカ人のクマラ(通称クマ)さんと出会ったミユキさんとその一人娘マヤちゃん。しかし、クマさんとミユキさんの結婚目前にクマさんは二人の前から姿を消してしまいます。クマさんは不法滞在で捕まり、入管に収監されてしまうのです。
この小説は、クマさんを取り戻そうと奮闘するお母さんを娘のマヤさんが見つめるという形で書かれています。日本の入国管理局と、そこに収容された人々の人権について、深く考えさせられる小説です。
題名の「やさしい猫」は、クマさんがマヤちゃんに聞かせてくれたスリランカの民話がもとになっています。ネズミの両親を食べてしまった猫が、ネズミの子どもたちからその事実を聞かされ、それからはネズミの子どもたちを大事に育てるという話です。何が言いたい寓話なのだろう、とドラマではすっきりしなかったのですが、小説を読むと、一つの解釈が出てきます。少数派で弱い立場にいる人(この場合は、ネズミの子どもたち)の気持ちを知った時、大多数派の人々(ここでは、猫)はどう振舞うべきなのか、という読み方です。それでもネズミを食べ続けるのか、それともネズミの立場を知って生き方を変えるのか…。日頃の生活の中では出会わず知らなかった「弱い立場の人々」を何かのきっかけで知った時、そこから私たちはどう振舞うべきなのだろうか、ということについて、「生き方」「考え方」の大きな示唆をもらった本でした。

西遠は、本日より1月3日まで「年末年始のお休み」に入っており、学校は開いておりません。2024年の学校業務は1月4日より始まります。ご了解ください。