小さな白板2025 第18週

図書館入り口に掲げた「小さな白板(ホワイトボード)」、今週は小さな命から始まって「生き物万歳」が隠れテーマでありました。

5月19日(月)
「お手洗い」の表示の上に子つばめのすまして座る朝の改札
       唐崎安子

忙しい朝の通勤通学時間に、作者は、駅の改札で見た光景に心和んだのでしょう。それは、「お手洗い」と書かれた表示の上にちょこんととまっている子つばめの姿。つばめの巣が近くにあるのでしょうね。つばめの巣やそこで育つ子つばめたちは、駅を使うたくさんの人々の癒しにもなっているのではないでしょうか。2024年7月14日の朝日歌壇で見つけた一首です。

5月20日(火)
タンバリンって名前をつけたそのとたん、たん、しゃん、たん、と子犬がはねる
       岡本真帆

子つばめの次は、子犬の登場です。タンバリンという名前がつけられたとたん、跳びはねる子犬!こんなにぴったりの命名はないですね。たん、しゃん、たん、・・・愛くるしい子犬のはねる様子が目に浮かびます。

5月21日(水)
寝返りをマスターせんと緑児は小(ち)さき雄たけびもらしクリアす
       舟山由美子

さあ、遂に人間の赤ちゃん登場です。「寝返り」は赤ちゃんの大きな成長のステップ。うんうん顔を赤くしながら寝がえりをしようと頑張る赤ちゃんのかわいらしさ…。小さな雄たけびと共に、遂に寝返りを成功させた赤ちゃんに、思わず拍手したくなります。子どもの成長を見守る親は、這えば立て、立てば歩めの親心、なのです。

5月22日(木)
書棚には太宰、坂口、檀の本孫は上気し目を輝かす
       大滝慶作

今年の2月20日に白板に書いた「わが孫は文豪アニメを入口に無頼派作家にはまりしと言う」と一緒に味わっていただくといいですね。本棚の太宰治、坂口安吾、檀一雄に目を輝かせる孫。祖父と孫の新しい共通の話題が生まれた瞬間です。世代を越えて作家の話が出来たり、感想を語り合ったりできるって、読書好きの人には至福の時間ですよね。実は、私も小学生の孫が「宙わたる教室」を読み始めたと聞いた時、天にも昇る心地でした!

5月23日(金)
ゆふぐれの峰にとどかぬ雲のあり 恋する前をなんといふのか
       楠誓英

「短歌研究2025年1・2月号 」に掲載されていた第1回「定家賞」。この賞に選ばれた楠さんの「薄明穹」のうちの一首です。「ゆふぐれの峰」という歌い出しが、藤原定家の世界を彷彿とさせます。峰に届かない雲を見て、恋に届かない状態を何というだろうと考える作者。恋心に気づかない、でも気になる存在がいる…というところでしょうか。そういう心の繊細な襞(ひだ)は、思春期の生徒たちにも理解できるのではないでしょうか。