犬のお話

2015年最初の録画は「さよなら、クロ」という映画でした。
2003年の日本映画で、主演は妻夫木聡、そして主題歌は「青春の影」。
チューリップファンなら、いの一番に見に行くべき映画ではありましたが、見そびれておりました。
昨夜、録画した「さよなら、クロ」を鑑賞しました。
「さよなら、クロ」の原作は、「職員会議に出た犬・クロ」という松本深志高校の国語の先生の本。
クロは、長野県の松本深志高校に実際にいた黒い雌犬です。
本の題名どおり、職員会議の部屋の真ん中で寝そべっていたり、授業に現れて犬嫌いの先生をビビらせたり、用務員さんの夜の見回りを先導したり、
映画のシーンに何度も吹き出しながら、私は一匹の犬のことを思い出していました。
実は、私の通っていた都留文科大学にも、
学生に愛された一匹の犬がいたのです。
クロと正反対で、
真っ白な雄犬でした。
名前は、「シロ」!
と言いたいところですが、
「シロ」だの「フミオ」だのいろいろ下宿や部活ごとに呼び名が違い、正式名は不明。
私の周辺の人々は、みんな「しょっけん」と呼んでいました。
食券?
食堂の「食」に犬の「犬」で「食犬」?
由来も定かではありませんが、ここでは「しょっけん」と呼んで話を進めましょう。
これが「しょっけん」です。↓

昭和54年4月、大学1年になった私は、出来たばかりの友人と共に、最初の講義「国語学」の教室へと階段を登って向かいました。
広い教室に入った時、南の席に一匹の白い犬がいるのを見つけ、私たちは騒然としました。
が、犬の好きな私と友人は、どうせなら犬のそばに座ろう!と、その犬のいるところに行って座り、恐る恐る彼の頭をなでました。
犬は実に気持ちよさそうに、目を細めています。
そんなこんなのうちにH先生が現れ、講義が始まりました。
見つかったら叱られるんじゃないかという心配をよそに、白い犬は静かに寝そべり、授業を邪魔することもなく、目を閉じています。
90分の講義は無事終わり、学生たちが立ち上がると、その犬もさっと起きて、涼しい顔で教室を出ていきました。
あっけにとられた私でしたが、「犬がいる大学!気に入った!」と、通い始めた大学のことを大好きになりました。
その後、下宿の先輩から、「大学にはしょっけんという白い犬がいて、1年生の最初の授業や、新任の先生の最初の授業に顔を出すんだ」と聞きました。
まさしく、最初の授業で、私はしょっけんと出会い、知り合いになれたのです。
なんと光栄な!笑
さて、その後私は、幾度となくしょっけんを大学構内で目撃しました。
時には4階の教室に現れ、時にはテニスコートで体育の授業を見学していました。
退屈な授業だと、てくてく教壇まで歩んでいき、先生に向かってあくびをする、という芸当も目撃したことがあります。
放課後は、都留唯一の大通りである「バイパス通り」をロードワークする陸上部の先頭をしょっけんが走っているのを見かけました。
しょっけんは、陸上部を安全に導くべく、対向車に容赦なく吠えかかっていました。
体育館で遅番の部活が終わるのを待って、学生のうち気前のよさそうな人を選んで一緒に夜の闇に消えていく後ろ姿を見送ったこともあります。
私は第一印象が良かったのか、しょっけんには結構仲良くしてもらいました。
一度は、朝早く帰省した時に、十日市場の小さな駅舎で電車が出るまで見送ってもらったことがありました。
想像してください、お座りして、発車する電車をホームで見送る白い犬の姿を…。
また、うなぎパイをあげたら、いたく気に入ってくれ、
そのお礼なのか、それから3日間私の買い物に付き合ってくれたこともありました。
スーパーに出かけると、どこからともなく現れて私に同行、
スーパーの出口でお座りして私が買い物を終えるのを待ち、
また下宿まで登り坂を一緒に歩いてくれたのでした。
階段は登っても、玄関からは決して入らないという紳士的なしょっけん。
本当はカメラが大嫌いな彼も、うなぎパイへの返礼か、上の写真を撮らせてくれたのでした。
大学生はみんなしょっけんを愛していました。
大学祭が近づくと、ふざけた学生のいたずらで、白い体に色がついたり、メガネ犬になっていたこともありましたが、
しょっけんは大学生にはめっぽう甘く、優しいのでした。
都留大は、山の中にあります。
大部分の学生が親元を離れ、下宿していました。
一人暮らしの寂しさや孤独を、しょっけんはどんなにか紛らしてくれたでしょう。
彼の存在が、大学生活を楽しく豊かに彩ってくれていたことを、
「さよなら、クロ」を見ながら、懐かしく再確認することができました。
私が大学を卒業して数年後。
昭和最後の夏休み、しょっけんは大学の図書館の前で死んでいたそうです。
発見した学生さんたちが大学の裏山に葬ってくれたことを、
大学教授のM先生があとで教えてくださいました。
しょっけん、私の大学生活を見守ってくれて、本当にありがとうね。
あなたのおかげで、本当に素晴らしい4年間でした。
しょっけんのエピソードはまだまだあって、とても書き切れません。
またいつかお話したいと思います。