小さな白板、第11週

図書館入り口に置かれた「小さな白板(ホワイトボード)」、6月14日から本日19日までの第11週のラインナップをご紹介いたします。今週は女性の短歌を集めてみました。

6月14日(月) 本当は星もひとりで光りたい 星座のひもを時にはほどいて  石川初子

インターネットで目に留まった「仙台っ子歌壇」。大賞も良かったけれど、私はこの石川初子さんの準賞に心惹かれました。「ひもをほどいて、一人で光りたい…。」どこかに所属しているのは安心だし、心強いけれど、時にはその束縛が苦しい時もあります。誰にも干渉されず、一人でいたいことだってありますよね。空の星座を見ながらそんな思いを星に投影して歌えるって素敵だなあ、と思いました。

6月15日(火) デッキにはそれぞれの風それぞれの話しかけられたくない時間  俵万智

石川さんの短歌を紹介した後、「集団の中の孤独」の歌に心惹かれ、「仙台っ子歌壇」の選者でもある俵万智さんの「サラダ記念日」からこの一首を選んでみました。たくさんの人が思い思いにデッキに出て風にあたっているけれど、皆それぞれに話しかけられたくない雰囲気でいる。旅の孤独を楽しんでいるのでしょうか、何か思い悩んでいるのでしょうか。今はどこかに出かけることすら困難ですが、一人旅に出たくなりました。

6月16日(水) 

終わらないでほしい恋さえ終わるから終わってほしいコロナも終わる カン・ハンナ

カン・ハンナさんを知ったのは、千葉聡さんが編集した「短歌研究ジュニア はじめて出会う短歌100」という本でした。奈良時代から令和までの100首が納められたこの本で、唯一「令和の短歌」で紹介されていたのが、カン・ハンナさんの歌だったのです。その後彼女をテレビで見かけ、「あ、この人がカン・ハンナさんだ!」と認識するようになったのでした。韓国から日本に来て、自身の研究を続けている若き女流歌人カン・ハンナさんは、第一歌集「まだまだです」で第21回現代短歌新人賞を受賞しました。「まだまだです」を読みました。海を挟んで二つの国の間で揺れる思い、お母さんへの思い、心にしみます。日本語を大事に大事に詠んでいる歌の一言一句の端正な美しさが全編通じて感じられる歌集です。

6月17日(木) 青春と夢と疑問が詰まってる 教室という四角い小部屋 柴田和絵

図書館で見つけた本「青春みそひと白書」から、高校生の一首を紹介しました。10代の短歌に触れると、完成度よりも新鮮味に感心します。「夢と希望」じゃなくて「夢と疑問」ってところが現実的でいいなあ。皆さんは教室に何を思いますか?

6月18日(金) 退屈な午後の授業は教科書の斎藤茂吉に髪の毛つける 草野泰子

前日に続いて、「青春みそひと白書」より。この本は、学生百人一首を募集した東洋大学がその傑作選を収めた本です。この短歌を読みながら、斎藤茂吉の髪ふさふさの頭を想像してくすっと笑いました。誰しもヒゲやら髪やら口紅やら、誰かの写真に付け足した過去があるのでは‥‥?

6月19日(土) ビルとビルの隙間をふいに凝視するように視力を確かめている 東直子

「短歌研究」1月号から。この「小さな白板」を始めたことで、明らかに歌集を読む時間が増えました。今を、社会を、心を、どんな言葉で切り取って三十一文字にするのか、この頃とても興味深いのです。東直子さんは、「階段にパレット」という小説で出会いました。都会で生きる日々の中の一瞬を切り取ったこの短歌が、心に残りました。

今週は、今を生きる女性たちの短歌シリーズでした。