小さな白板2022 第22週

図書館入り口に掲げた「小さな白板(ホワイトボード)」、今週は秋を感じさせる歌を特集してみました。生徒の皆さん、心にしっくりくる短歌が見つかったでしょうか。

10月11日(火) 
  ボールペンが落ちても鞄をひらいてもすべての音が十月である    荻原裕幸

秋休みが終わり、再び生徒たちの元気な顔が学園に戻った日。1週間の休みの間に、学園も秋めいてきました。自然の事象だけでなく、ボールペンが落ちる音も、カバンが開く音も、すべてに秋を感じるという荻原さんの短歌で、後期スタートです。この歌も歌集「永遠よりも少し短い日常」から採りました。素敵な短歌がいっぱいある歌集です。

10月12日(水) 
 秋の陽が三角定規をあてながらすうっと斜めに射しこんでくる   太田千鶴子

秋休み、朝日新聞の「朝日歌壇」(2022年10月9日)で出会った短歌です。三角定規をあてたように部屋に入り込んでくる秋の日差し。その真っすぐな光のあたたかさを心地よく感じられるのが、秋という季節なのだなあとしみじみ思いました。

10月13日(木) 秋の陽をかがやかせ散るケヤキの葉fallと降るの発音の似て  富田睦子

2日続けて「秋の陽」で始まる短歌を紹介しました。日よりも陽の字の似合うのが秋かもしれません。秋の落葉の様子を見ながら、「fall」と「降る」が似ているなって気づく…そういうこまやかな心を持ちたいと思いました。「短歌研究」1月号でこの歌に出会ってから、秋になったら紹介しようとずっと大事にとっておいた一首です。紹介できる秋が来たことが嬉しくもあり、月日の過ぎゆく速さに切なさもあり、秋の心は複雑です。

10月14日(金) きっぱりと列車は橋をわたりゆき川のすべてが夕暮れとなる  江戸 雪

10月14日は「鉄道記念日」なので、列車の歌を紹介しました。列車が鉄橋を渡り切って遠ざかり、残るのは夕暮れの色に染まる川の風景…。短歌がそのまま一枚の絵のように感じられました。子どもが小さい頃、天竜川の河川敷に車を停めて、新幹線や東海道線が鉄橋を渡っていくのを親子で何台も見送ったなあと、昔のことを思い出しました。今や子どもたちも30代半ば、彼らもそんな日のことを覚えているのでしょうか。

10月15日(土) 
 白い猫をわれはいじくりてきたるゆえねこのにおいのするゆうまぐれ  村木道彦

県立高校の先生だった村木道彦先生をご存じの方、教わった方、地元には多いのではないでしょうか。先生は浜松西高に勤務していたこともあり、私自身、弟から何度も「村木道彦先生」の名を聴いたことがありました。こうして、「小さな白板」を始めてから、たくさんの短歌と出会うようになって、遂に村木先生の短歌にたどり着きました。これから、たくさん紹介させていただきたいと思います。今日は、猫とゆうまぐれの歌をどうぞ。

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秋の青空と小鳥たちをどうぞ。ハクセキレイ、カワラヒワ。ともに、さえずりの美しい鳥です。