小さな白板2023 第8週

図書館入り口の「小さな白板(ホワイトボード)」、今週は春の訪れを感じさせる短歌を多く選びました。

2月20日(月)
 自販機に冬の飲みもの減ってくね あたたかいかさびしいかがわからんね  
                    岡野大嗣

いろんなところに春の到来を感じさせる材料がありますね。それに気づく人、気づかずに過ごす人。自販機の「温かい」のランプが嬉しい日々も、今年はもう残りわずかかもしれませんね。冬が終わるのは嬉しいけれど、温かい飲み物へのノスタルジアも…。

2月21日(火)
 後悔が残るくらいがちょうどいい春あわゆきのほかほか消える  東直子

昨年の春、東大の岡ノ谷一夫教授が退官にあたってこの短歌を引用したことを知り、ノートに書き留めたのでした。「後悔が残るくらいがちょうどいい」という上の句が、人生を想わせ、グッときます。
浜松に生まれ育ち今も暮らす私には、「あわゆき」の消え方はあまりなじみがありません、山梨県に4年住んでいましたが、降る雪ばかりにわあわあ言っていて、消えていく雪、終わる雪の季節に、あまり注意を払っていなかったように思います。四季の移ろいを受け止める心が足りなかったのかな…。
だから、「あわゆき」を2月に紹介するのは少し早いのかな…なんて臆病に思いながら白板に書きました。でも、少し季節が違っても、これから雪国に行く高校3年生もいるでしょうし、雪のある地方で生きる時に、春この短歌を思い出してくれたら嬉しいなと思っています。

2月22日(水)
 北半球じゅうの猫の目いっせいに細められたら春のはじまり  飯田有子

にゃんにゃんにゃんの猫の日ですから、猫の短歌ですよね! 猫の目と春の始まり、なんか幸せな気持ちになる短歌です。皆さん、猫は好きですか?

猫の日、こんな素敵な本を手に入れました。椹野道流(ふしの・みちる)さんの「ちびすけ meets おおきい猫さんたち」というフォトエッセイです。去年夏、ツイッターでたまたま出会ったこのちびすけに一目ぼれして、毎日椹野さんのツイートでちびすけに会うのを楽しみにしていました。ちっちゃなちっちゃなちびすけが、椹野さんちのおおきい猫さんたちに、見守られ、時に威嚇されながら、素直に元気に育っていく様子は、本当にかわいくて、涙が出るのです。椹野さんは自らを猫さんたちの「執事」と表現し、ちびすけになりきったツイートでは「しつじ、あそびましょう」とひらがな書き。犬派の私を完全に猫派に転換させたちびすけが、この2月に待望の一冊になったのでした。予約購入しました。家のパソコンの前に、毎日「へそてん」で寝っ転がってるちびすけ(の表紙)を見てはニンマリしているオオバです。

2月24日(金)
 銃声を聞いて育ったタンポポはきっと綿毛を遠くへ飛ばす  寺澤知世

ウクライナへのロシアの軍事侵攻から1年。西遠では「国際カンファレンス」が行われた日でもありました。
ウクライナの人々を想う歌や平和を願う歌が、この一年間たくさん生まれました。私が選んだのは、タンポポの綿毛に平和への願いを込めたこの歌。「短歌研究」2022年7月号の「短歌江研究詠草」で特選になった作品です。私と同じ名前の方のこの短歌の静かで厳かな反戦の思いに、心が震えました。
皆さんは、今、どんな思いをもって国際情勢を見ていますか? 世界が平和になるように、私たちにできることは何か、常に考え続けましょう。

2月25日(土)
 a pen が the penになる瞬間に愛が生まれる さういふことさ  大松達知

a が the に変わるということは、それが特別な存在になる瞬間。愛ってそういうものだ、と大松先生。「さういふことさ」のひらがな表記(しかも歴史的仮名遣い)が軽妙な中に人生の先輩としてのあたたかさを感じさせますね。生徒の皆さんも、いつか 「a が the に変わる瞬間」、大事な人が現れる瞬間を体験するんだろうなあ…。

明日から高校3年生が戻ってきます。卒業までの一週間、どんな短歌で彼女たちの旅立ちを送りましょうか。