小さな白板2023 第11週

【最初にお知らせ】西遠女子学園も春休みに入りました。あすは、ギターマンドリン部とダンス部の自主公演があります。お客様にご参加いただける4年ぶりの公演ですので、明日は、美しい音色のギタマンと、華麗なステージのダンス部の公演にどうぞ皆様お越しください!

それでは、令和4年度最後の「小さな白板(ホワイトボード)」です。

3月13日(月)
子の熱で休んだ人を助け合うときだけ我らきっとプリキュア   遠藤翠

「女が叫ぶ みそひともじ おしごと小町短歌大賞」という短歌のコンクールがあるのを知りました。主催は、OTEKOMACHI(大手小町)。そのコンクールの大賞作品 がこちらです。愛知県 遠藤翠さん(32 )の作品。会社の女性の皆さんが誰かの急な休みに対応して助けの手を挙げる、それをプリキュアになるのだと想像する力。「我らきっとプリキュア」には、感嘆符「!」を付けたくなるほどです。力強くてすごくかっこいいです。
この短歌大賞、俵万智さんと吉澤嘉代子さんが審査委員を務めていらっしゃいます。

3月14日(火)
しつけ糸切って解放してやればスカートもひとすじの糸も自由だ   飯田有子

襞(ひだ)がたくさんあるスカートが風に翻る様子が想像されます。おろしたてのスカートのしつけ糸を切る時、スカートがふわりと自由になることは想像できますが、そうか、スカートのひだを縛り付けていたしつけ糸だって、自分の仕事から解放されて自由になるんだ!と、新鮮な視点にわくわくしました。

3月15日(水)
何でも見てやろう、何でもやってみよう。そういう意気を持って、若い人には生活していただきたい。本当に人間とはどんなものなのか、どういう人がいるのか、自分の仕事はどういうものかということを、肌で感じて考えてほしい。      
  緒方貞子

日本人として初めて「国連難民高等弁務官」を務めた緒方貞子さん。2019年に亡くなられ、もう3年がたちましたが、いまなお、緒方さんの言葉は、たくさんの若者、女性を勇気づけます。若い人々へのこの言葉は、こちらから採りました。ぜひお読みください。

3月16日(木)
ほのぐらいパンジーの陰ひとやすみしたいと思う小さくなって  盛田志保子

ときめき花壇のパンジーを見ていたら、なんだかこの短歌を紹介したくなりました。

パンジーの花の陰は決して大きくないけれど、ほの暗いその空間に入って、ちょっと隠れるようにひと休みしたい…。だれでも、小さい人になりたい時がありますよね。皆さんのお気に入りの小人は誰ですか?私は「木かげの家の小人たち」のアイリスとロビンです。いぬいとみこさんの「木かげの家の小人たち」、しばらくぶりに読みたくなりました。

3月17日(金)
春の水小さき溝を流れけり  高村光太郎

詩人として「道程」「智恵子抄」が有名な高村光太郎ですが、若い時、短歌を書いていたことも知られています。が、俳句は私自身もあまり見たことがありませんでした。
小さな溝を通る水の音が聞こえてきそうな俳句ですね。1909年の作品だと言いますから、今から100年以上前の句なのですね。光太郎はこのとき26歳。アメリカ・イギリス・フランスと美術のための留学に出ていた彼が帰国を考えている頃の作品です。異国の地にあって、日本の山のせせらぎの音を懐かしく思ったのかもしれません。

3月18日(土)
想像力とは現にあたえられているイメージ、固定しているイメージを根本から作りかえる能力である。  大江健三郎

大江健三郎さんの訃報は、とてもショックでした。最近、様々な集会にもお顔を出さないので、お病気なのかしらと思っていましたが、遂にお別れの日が来てしまいました。20代の頃、彼の作品を読み込むようになりました。難解な文章だし、難解なストーリーで読み進めるのに苦労するのだけれど、わが子 光さんを思わせる登場人物が作品に大きな希望を与えていて、それがなんとも温かくて心和むのです。ノーベル文学賞受賞のニュースを聞いた時には、居間のテレビの前で思わず歓声をあげたことを覚えています。

「核の冬」に向かうのでなく、明日の子供たちに暖かい世界がありうる方向をめざすためには、絶滅の恐怖のもとにある民衆の、生き延びようとする意志の運動に希望をかけるほかあるまい。……どのようにして世界の民衆の「核の冬」を拒む意志を、超大国の権力者の態度変更につなぎうるか?それが今世紀最大の想像力の課題であろう。想像力とは現にあたえられているイメージ、固定しているイメージを根本から作りかえる能力である。

大江健三郎「新しい文学のために」(1988年出版 岩波新書)より

平和や護憲にも活躍された方でした。ですから、一瞬、ノーベル賞受賞の際も、「え?ノーベル平和賞じゃないの?」と思ってしまったぐらいです。後年、憲法9条の会を立ち上げるなど、日本の行く末を案じ、行動した人でした。2014年には、東京新聞の取材に対し、「9条を守ること、平和を願うことを生き方の根本に置いている。」と答えています(記事はこちらをご覧ください)。実は、西遠の100周年で記念講演をお願いしたことがありますが、「9条のことで忙しいのでご容赦ください」と書かれた直筆のおはがきをいただきました。お断りのお返事ではありましたが、当時100周年委員会の責任者だった私には、自分宛の大江さんの直筆はがきは、家宝になりました。

大江さんが亡くなり、映画監督の山田洋次さんは「現在のような混沌としたこの国の、さらに世界の状況にとって大きな損失だということを考えます。心ある日本人にとって、羅針盤を失ったような気持ちではないでしょうか」とおっしゃっています(出典:日テレニュース)。

音楽家の坂本龍一さんが東京の神宮外苑の再開発に対し、再考を促す行動を起こしたというニュースを知った時、山田監督のおっしゃる「羅針盤」のことを思い出し、「大丈夫、大江さんの後に続く人がいるのだ」と力強く思いました。大江さんという羅針盤を継承する人々と共に、混とんとした世の中で平和を願い、人と自然の共存する未来を願うことを、私たちは意識し、行動しなくてはならないのだと思います。令和4年度の最後の白板は、そんな願いを込めて、大江さんの言葉を記しました。

☆  ☆  ☆

冒頭にも書きましたが、明日のギターマンドリンとダンスの公演、ぜひお楽しみに!