憲法記念日に

5月3日(祝)、今日は憲法記念日です。憲法について考える本を紹介します。

その1 「1945年のクリスマス」ベアテ・シロタ・ゴードン

1冊目は、ベアテ・シロタ・ゴードンという女性の自伝です。カバーにありますように、「日本国憲法に『男女平等』を書いた女性」がこの方です。彼女がいなかったら、今の日本の女性の地位はどうなっていたでしょうか。彼女は中学3年生の必読図書でもある「世界を変えた10人の女性」にも名を連ねています。

ベアテ・シロタさんは、1923年ウィーン生まれ。世界的に有名なピアニストである父レオ・シロタはキエフ(現在はキーウ)に生まれたユダヤ人でした。滝廉太郎に誘われ、1929年に来日したシロタ一家。5歳のベアテはそこから約10年を日本で過ごし、アメリカに留学しました。日本にとどまる両親がはるばる米国に住む娘に会いに来て、再び日本に戻ったタイミングで日米開戦。親子は日本とアメリカに引き裂かれ、音信不通となってしまいました。仕送りもなくなったベアテは、満を持して、語学力を生かした働き口を探し、その実績が、終戦後、ベアテを日本に誘うことになったのです。彼女は、行方不明の両親に再会するために、GHQ民政局のスタッフとなって来日します。それが、1945年のクリスマスのことでした。

この自伝を読むと、家族との再会の感動もさることながら、圧巻はやはり憲法の案を作り上げる数日間のことです。女性の権利を盛り込むために、彼女がどれだけ苦心したかが分かります。彼女がいなかったら、今21世紀の日本の女性はここまで自由に権利を享受できたでしょうか。緊迫した空気の中で行われた作業と交渉、日本とGHQのやり取り等は、臨場感あふれるものでした。彼女がいつも深く考え、そして積極的に行動するキャラクターであったことが、彼女の人生だけでなく、日本の女性たちの未来を拓いてくれたのです。

一人の女性の人生という視点から、日本国憲法を考える良い一冊だと思います。

その2 「檻の中のライオン 憲法がわかる46のおはなし」 楾大樹

このブログでは何度も紹介している本です。とても分かりやすく日本国憲法について説明されており、公民の教科書にも掲載されたとのことです。「権力」をライオンにたとえたこの本、「檻」こそが「憲法」を表します。本の帯(裏表紙側)にはこう書かれています。

ライオンが私たちに嚙みついたりしないように、ライオンには檻の中にいてもらいます。いくらライオンが偉くても、檻から出してはいけません。

  楾 大樹著「檻の中のライオン」(かもがわ出版)の帯より

筆者の楾(はんどう)さんは弁護士です。イラストも分かりやすく、中学生の皆さん芋とても分かりやすい「入門書」になっています。楽しく親子でお読みください。

その3 「18歳からの民主主義」 編 岩波新書編集部

私はこの本を平成28年の憲法記念日に読みました。その年の4月20日に出版されたばかりの新刊でした。 岩波新書編集部の皆さんの熱意を感じながら読みました。

平成28年6月19日から、18歳で選挙権が与えられるようになり、昨年からは18歳で成人となった日本。この6,7年の間に、若者には怒涛のような変化が押し寄せました。どんな「主権者」になるべきか、「選挙って何だ?」「憲法改正って何?」「18歳から、戦争と安全保障を考える」「若者の意思が日本を変える」など、様々なタイトルで18歳から101歳までの様々な世代のメッセージが集められています。裏表紙には「〈1票〉には変える力がある!」と書かれています。生徒の皆さんには「自分事」として手に取ってほしい本です。

その4 「永遠平和のために」カント(池内紀・訳)

カントは、1724年に生まれ、1804年に亡くなった哲学者です。日本ではまだ江戸時代だった頃の人ですから、そんな昔の人が憲法記念日と何の関係があるの?と思われそうですが、このカントの教えが、現代の「国連」や日本の「憲法第9条」の理念へとつながったのです。時代を超えた教科書と言ってもよいでしょう。

カントの言葉を分かりやすく訳してくれたこの本。写真も添えられています。訳を担当した池内紀氏は2019年8月に亡くなりました。テレビなどで親しみのあるお人柄を知っていたこともあり、とても寂しかったことを覚えています。この本は、池内さんの忘れ形見でもあると思っています。

番外 本ではありませんが、大江さんの言葉

今年3月3日に亡くなった大江健三郎さん。東京新聞に「大江健三郎さん『9条を守ること、平和を願うことが生き方の根本。次の世代につなぎたい』 本紙に生前訴え」という記事があり、その中に紹介された大江さんの言葉(東京新聞2014年12月5日朝刊に掲載)を、今日はぜひこのブログでも紹介したいと思います。

僕が12歳のときに憲法ができた。学校で9条の説明をされて、もう戦争も軍備もないと聞いて、その2年前まで戦争をしていた国の少年は、一番大切なものを教わったと思った。自然な展開として、作家の仕事を始めた。9条を守ること、平和を願うことを生き方の根本に置いている。われわれは戦後70年近く、ずっとそうしてきた。次の世代につなぎたい。

東京新聞2023年3月13日 大江健三郎さん「9条を守ること、平和を願うことが生き方の根本。次の世代につなぎたい」 本紙に生前訴え より

私自身、大江さんと同世代の母から何度も何度も聞かされてきた平和憲法の重み。大江さんの言葉が、どうぞ今こそ多くの人々に届きますように。タモリさんが今年初めに言ったという「今年は新しい戦前になるんじゃないか」という予言が、どうかはずれますように。