小さな白板2023 第33週

図書館入り口に掲げた「小さな白板」、9月4日から9日までのラインナップをお届けします。

9月4日(月)
朝日より吾へと海をひた走るひかりの道は踏みがたきかも
   黒瀬珂瀾

皆さんは「海」と聞いた時、どこの海、どんな海を想像しますか? 私はどうしても地元である中田島砂丘を思い浮かべます。作者はどこの海辺でこの歌を詠んだのでしょうか。
砂浜の自分に向かって、海から登った朝日の光の筋ができるのぼった朝日の光の筋ができる、そのすーっと真っすぐな「ひかりの道」は、踏んではいけない神々しさを持っている…。特に朝の光は、触れてはいけない高貴な感じがしますね。

9月5日(火)
ひまわりは晩夏うなだれ菜園のふちに焦げたる色して立てり
  富田睦子

ひまわりの大きな花は、見頃を過ぎると、巨大なモニュメントのようになりますね。花の真っ盛りの黄色いひまわりではなく、うなだれて焦げた色をして立つひまわりが、行ってしまった夏を惜しむような存在として、寂しさを漂わせる短歌になるんですね。目にした光景は、「華やか」とか「美しい」だけではなく、様々な発見を私たちに提供してくれるのです。「きれい」「感動」という言葉を軽く使って終わらせない、豊かな感受性を持ちたいなといつも思います。

9月6日(水)
ちょうどいい重みが肩に乗るような展覧会の静かな時間
   菅谷彩香

朝日新聞2023年7月16日の「朝日歌壇」に掲載されていた一首です。ちょうど「マティス展」が気になっていた頃でした。熱中症を警戒して、真夏の美術館にはここ数年足が遠のいていましたが、この短歌を味わい、「そうそう、美術館に行くと、なんだかちょっと気を張るなあ。でもそれが気持ちいいんだよね…」と美術館に行きたい気持ちを募らせたのです。この短歌も、私を「真夏の東京弾丸日帰りツアー」の背中を押した要因の一つです(笑)。

9月7日(木)
灰色の雲のすきまに手を差して空をつかんだ逃してなるか
   山木礼子

ちょうど台風の情報があって、お天気が心配な時でした。暗い雲いっぱいの空を見上げると、雲の隙間に青空がちょっとだけのぞくことがあります。そうだ、雲に阻まれているけれど、その向こうには案内青い空があるんだ、と思うと、この短歌の作者のように「この青空を逃してなるものか」という思いになります。
浜松は台風や雨の被害を受けずに済みましたが、豪雨の被害が茨城や千葉など東日本でひどく、ニュースの映像にショックを受けました。被災された地域の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

9月8日(金)
「きまじめ」の「き」がきつすぎてただ「まじめ」と書けばいきなり品格下がる
   佐藤通雅

確かに「生真面目」というと、頭に「き」がくっついただけでちょっときつい感じになりますが、だからといって「まじめ」の3文字だと、自分の「長所」としてはあまりアピールできない感じもします。この短歌を見つけた高校3年生は、「わかる~!」といたく共感していました。高校3年、受験を前に自分と向き合う機会が増えて、実感が伴うのですね。

9月9日(土)
子と我と「り」の字に眠る秋の夜のりりりるりりりあれは蟋蟀(こおろぎ)
  俵 万智

幼いわが子と「り」の字に眠るお母さん。「川」の字はよく使うけれど、「り」の字は新鮮でした。でも、実際に「り」の字で寝ている親子はたくさんいますよね。家族の形はいろいろあって当然です。シングルマザーの俵万智さんの作品には、そんなお母さんたちにも届く短歌がたくさんあります。そのうえで、俵さんは虫の音に思いを馳せます。「り」の字になったその耳に、「りりりるりりり」とコオロギの音が聞こえてくるのです。秋の夜の素敵なひとときです。
この短歌をホワイトボードに書いた時には全く気づきませんでしたが、あとになって、自分の書いた「り」の字がカタカナっぽく見えることに気づいて、この短歌には平仮名の良さがなくちゃいけないのに、自分の表現力・注意力の甘さったら…と反省したオオバでした。

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秋と言えば、「実りの秋」です! 学園のヒメリンゴの実が色づきはじめました。

我が家のジャカランダが、20数年の月日を経て、初めて花を付けました! 恥ずかしそうに葉っぱの中に隠れている紫色の花に気づいた時、思わず歓声を上げてしまいました。

9月に咲くなんて聞いてないよー!と思いましたが、西遠でも今、2番花が咲いてます。アレクサに聞いたら、「ジャカランダは、4月と8月に花が咲きます」と答えました。オーストラリアでも真夏にもう一回咲くのかなあ。