小さな白板2024 第3週

今年も図書館入り口に掲げています「小さな白板(ホワイトボード)」、今週はドラゴンウィークです!

1月15日(月)
とりどりの小さきけものの融けあいて冬雲やがて竜となりゆく
      高添美津雄

「辰年」なので、辰・竜・龍・タツ・りゅうと、辰に関する短歌や詩を探し、ドラゴンウィークと称して(誰にも言ってない。笑)「辰」尽くしの週となりました。
先陣を切ったのは、雲の形が竜になっていくように見えたという短歌。朝日歌壇1997年1月20日(あ、27年前のちょうど今日ですね!)に掲載された高添さんの短歌です。架空の生物である「竜」は、様々な動物の良いところ・特徴的なところを取り入れて想像上の動物として作り上げられたとも言われています。小さなけものたちの形に見えた雲が、やがて一つに溶け合って「竜」の形に完成されようとしている…。なんだか架空の動物「竜」の成り立ちをその目で追っているようで、読んでいる私までわくわくしました。

1月16日(火)
竹の下に無理やり龍を押し込めて籠もるという字はとても窮屈
      大友喜恵

こちらの短歌も、朝日歌壇ライブラリーからです。
「朝日歌壇2020年6月7日」ということは、コロナ禍の真っ只中にあったときですね。「窮屈」という表現に、あの頃の不自由な生活(どこにも行けず家に籠もるということが本当に窮屈でつらかったですね)が脳裏によみがえります。
それにしても、「籠(こ)もる」という字をこんなに読んだり書いたり打ったりするようになるとは、2020年の1月の時点ではまだ想像もしていませんでしたっけ。
「たけかんむりに龍と書いて籠もると読む」と頭で分かっていても、竹の下に龍が押し込められていて窮屈そうだ、なんていう発想はなかなかできませんよね。
画数の多い漢字を恨めしく思いながら今まさにテスト勉強している皆さん、この発想で意味を踏まえて漢字を覚えちゃいましょう!

1月17日(水)
日本流「ハカ」をつくろう四股をふみ雲竜型のせり上がりして
      野上卓

この短歌も朝日歌壇ライブラリーから。2019年11月10日掲載ということは、日本で行われたラグビーワールドカップの期間に作られた短歌ですね。
ラグビーW杯ですっかりお馴染みになった「ハカ」。もとは、マオリ族の戦士が、戦いに際して自らの力を誇示し、相手を煽るために踊ったものだそうですが、ハカはラグビーの試合前の楽しみでもありますね。ニュージーランドだけでなく、サモア、フィジー、トンガなどが試合前に披露します。そのハカを日本でもやろうじゃないか、という短歌。お相撲さんのように四股(しこ)を踏んで、横綱の土俵入りの「雲竜型」のせり上がりで決めて、相手を威嚇しようじゃないか、という発想、日本文化のいいところ満載ですね。想像したら楽しくなってきました。野上さんの提案に私も一票!
ちなみに、どこがドラゴンウィークかと言いますと、「雲竜型」の中に「竜」が隠れているのでした。日本の文化の中には、いろんなところに「辰」が隠れていますよね。

1月18日(木)
ゆっくりと浮力をつけてゆく凧に龍の字が見ゆ字は生きて見ゆ
     岡井隆

ドラゴンウィーク、「THE 龍」という風格を感じて、短歌四作の大トリにしたのが、歌人 岡井隆氏(1928年ー2020年)の一首です。
凧に描かれているのは、「龍」の大きな一文字。字しか書かれていないシンプルな凧なのに、ぐんぐんと浮力を付けて舞いあがっていく凧は、まるで龍が生きているような動きをしていて、字が生きているもののように見える…。この短歌に出会ったとき、「字が生きて見ゆ」と言い切る力強さに感動しました。

えっ、まだ金曜を残して、真打ち登場しちゃったのですか? じゃあ、金曜は何を・・・?

1月19日(金)
 天然の素中に
 清涼無敵の秩序を
 投げて
 天上する波、
 龍。
    高村光太郎「龍」より

金曜の白板は、短歌ではなく、詩にしました。
詩人 高村光太郎は、『猛獣篇』と呼ばれる10数作の詩を残しています(詩集になっていないので、「詩篇」と言われています)。その中の一作が「龍」です。他にも、白熊や獅子、マントヒヒや鯨も登場します。この「猛獣篇」の第一作「清廉」が発表されたのが、今からちょうど100年前の大正13(1924) 年でした。私はこの『猛獣篇』を卒業論文にしましたので、とても『猛獣篇』はその制作時期が第一期と第二期に分かれており、第一期は風格漂う孤高の動物たちが描かれ(「龍」も第一期の詩です)、第二期は悲壮感漂う動物たちが描かれています。一期と二期の間には、愛する妻智恵子の自殺未遂からの闘病という大きな事件がありました。智恵子の死後、二度と猛獣の詩は書かれず、『猛獣編』は詩集にもなりませんでした。光太郎の胸の中にいた猛獣たちは、妻の死と共に消えてしまったのかもしれません。

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大寒の今日は寒かったですね。明日はまた暖かくなるそうです。寒暖差にご注意ください。
生徒の皆さんは、週明けからの定期テストの勉強に打ち込んでくださいね!