小さな白板2024 第9週

「小さな白板(ホワイトボード)」は、毎日図書館入り口に飾られています。2月26日からの第9週は、高校3年生再登校、送別会、そして創立記念式を迎える、慌ただしくも切なさあふれる週でした。

2月26日(月)
活用を黒板に書く「悲しもう」「悲しめ」なんて言うことあるの?
        千葉 聡

作者は国語教師で歌人のちばさと先生こと千葉聡さんです。現在、横浜市立横浜サイエンスフロンティア中学・高等学校にお勤めで、「横浜サイエンスフロンティア高校・中学校の小さな黒板」を書いていらっしゃいます。「小さな白板」を始めたきっかけを作ってくださったわが師匠(勝手に弟子入りしてます)でもあります。
国語教員としてとても共感する短歌です。中学1年生に動詞や形容詞、形容動詞の活用について説明するとき、様々な単語を使って練習していくために、「悲しもう」「悲しめ」なんて「絶対使わないよね」という活用例も紹介せざるを得ないんですよね。因みに、「悲しむ」はマ行五段活用、まみむむめめも。「悲しも」が未然形、「悲しめ」が命令形ですが、皆さん覚えていますか? 同じマ行五段活用なら、「楽しもう」「楽しめ」がいいですね。
中3の先取り学習で、古典文法を学ぶ時の動詞「ナ行変格活用」もまた刺激的であります。ナ変は2つしか動詞がありません。気になる人は調べてみてください。

因みに(2回目ですが)、ちばさと先生は、3月1日の高校卒業式の日、生徒から出されたお題を3つ取り入れて、
 君が君らしく進んでゆく道の先はいつしか空へと進む  千葉聡
と黒板に綴っていらっしゃいました。→こちらをどうぞ。

2月27日(火)
叱られてGoogleマップで旅に出るパリの街角インドの寺院
         小池弘一

2月終盤は、「短歌研究」2月号にて発表された「第4回短歌研究ジュニア賞」の入賞作品のご紹介です。一日目は、小池弘一さんの短歌。第4回短歌研究ジュニア中学生の部の金賞作品です。小池さんは中学3年生。叱られてもしゅんとしてしまったり縛られて不自由を嘆いたりするのではなく、自分なりのやり方で心の自由をしっかり補給しているところが素敵ですね。

2月28日(水)
おもいでがさみしがってる自転車に乗れない感じ思い出せない
        飯塚大雅

第4回短歌研究ジュニア賞で高校生の部のトップ、「特選」を獲得した短歌がこちらです。皆さんは、自転車に乗れなかった頃の感覚を覚えていますか?人は成長するにつれて、だんだんとできるようになるものが多く、それが当たり前になると、できなかった頃のことを忘れてしまいます。できなかった頃の怖さや悔しさ、つらさ、焦りやなにくそという思い…そういうものを全部忘れちゃったら、思い出はさみしがっていますよ。と、この短歌が教えてくれました。自転車に乗れなかった頃、大きなプールが怖くて泳げなかった頃…、ちょっと昔を振り返って自分の来し方を振り返ってみましょう。そこにある成長を素直に喜べるのか、初心に返って気を引き締めるのか、…それは一人一人の自由ですね。

2月29日(木)
誰もいない部活の終わった教室は走行してる夜行バスのよう
        菅原瑞生

第4回短歌研究ジュニア大賞および中学生の部特選の一首が、中学3年生の菅原さんの作品です。部活動が終わって誰もいない教室に戻った時の感覚を、「走行してる夜行バス」と捉えた作者の感性のみずみずしさ。菅原さんはこの一首ができた過程をこう語っています。

この作品は、学校での漢字テストの余った時間に創ったものです。先生から与えられた短歌の課題が「教室」でした。その課題から自分が好きだった部活終わりの友人と過ごす教室の時間を思い出し、それが遠征帰りの夜行バスの雰囲気に似ていたことを短歌にまとめました。   

「短歌研究」2024年2月号「第四回短歌研究ジュニア大賞受賞者・菅原瑞生さんの言葉より 

部活が終わった後の「教室」と、その部活の遠征帰りに利用した「夜行バス」が結びついて、この一首が生まれたのですね。まさに生活の中から生まれた、菅原さんにしかできない一首です。

西遠生の皆さんも「短歌」に挑戦しませんか? 自分が感じたことを31文字に。ジュニア賞への道は、参加することから始まります。

3月1日(金)
希望より大切なのは絶望をしないこと歩き続けることだ
        千種創一

3月は旅立ちの季節。月初めに、メッセージ性の強いこの短歌を選びました。「絶望しないで歩き続ける」ことができるのは、その人の「生きる能力」そのものです。私たちが選んだのは、すっきりした楽な道ではなく、もやもやを抱えながら生きていく道なのですから。5日に巣立つ卒業生にも、「青春の道場」で学び続ける在校生の皆さんにも、この短歌を心に刻んでほしいな…と思います。

3月2日(土)
半紙折るように畳に手を置いてなんてきれいなおじぎするひと
        太田千鶴子

3月2日の創立記念式の式辞で紹介した短歌です。朝日歌壇2024年1月8日にこの短歌に出会った私は、この女性は「鋼の玉を真綿でくるんだ女性」だ、と直感しました。女性はおじぎの所作も素敵ですが、きっとこの所作は彼女自身の生き方や考え方を反映しているだろうと思います。「未来を拓く力」を獲得した西遠生たちが、様々な場面でこんな女性のようにエレガントに、たおやかに、そして凛として輝いてくれることが、私の願いです。

3月になり、春の息吹が一層力強く感じられるようになりました。明日、巣立ちゆく高校3年生の前途をお祝いするかのように咲き誇っている学園の花々をどうぞ。すべてが「世界で一つだけの花」です。