高校講堂朝会「ヨシコとトモコとエリカと憲法」

本日5月25日(土)1時間目は、高校講堂朝会でした。

タイトルは、今朝決めました。
「ヨシコとトモコとエリカと憲法」
これは、本日、訓話の中で紹介した女性たちの名前です。今日の訓話では、次の4名の女性を紹介しました。

  1. 三淵(みぶち)嘉子 : 初の女性弁護士、初の女性判事、初の女性裁判所長 
  2. 猪爪寅子(ともこ): 朝ドラ「虎に翼」の主人公 通称トラちゃん 今は佐田寅子
  3. 赤根智子 : 国際刑事裁判所(ICC)所長
  4. 吉田恵里香 :脚本家 作品に「花のち晴れ」「恋せぬふたり」「虎に翼」など

ヨシコさんこと「三淵嘉子さん」の生き方

昨日、我が家に届いていた本は、その最初の女性「三淵嘉子さん」の生涯をたどる本です。

『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』神野潔 著
(日本能率協会マネジメントセンター)

この本をたどると、三淵嘉子さんという女性が、いかに魅力的であったか、彼女を慕う人々の多さに驚かされます。学問に励み、努力を続け、清廉であり、チャーミングであり、…というその生き方に、私は西遠生の理想像「鋼の玉を真綿でくるんだ女性」の姿を感じました。

そんな三淵さんの言葉を本からいくつか生徒に紹介しました。

長い間「男の法律」で裁かれてゐた「弱い女」を「女だから」知らなかった法的な無知を、女自身の手で護ることのできる日の近づいたことを、皆様とともに喜びたいと思ひます。
  (高等試験合格後、「読売新聞」に寄せた文章「女と法律」より)

教育における差別こそ戦前の男女差別の根幹であり、人間の平等にとって教育の機会均等こそが出発点である。

家庭裁判所の入り口は階段をつけてはいけない。平らにそのまま庶民が入ってこられる裁判所でなければいけない。

いずれからも「困っている人間の力になりたい」と語っていた三淵さんの決意が感じられます。三淵嘉子さんは、この本のタイトル通り、先駆者であり続けた人生を歩み、1984年に亡くなりました。
生前、語らなかった「原爆裁判」のことに触れたWeb記事もあります。この記事が、次の章でお話する赤根智子さんにつながりました。→ FRaU 「息子にも語らなかった」『虎に翼』寅子のモデルが挑んだ「原爆裁判」の中身

二人のトモコ 「猪爪寅子」と「赤根智子さん」

寅子と書いてトモコと読む朝ドラの主人公は、女学校を卒業したら結婚するという「当たり前の道」に行くことに疑問を持っていました。法律を学ぶ道を選んで「私は地獄の道を行きます」と宣言します。講堂では紹介しませんでしたが、寅子の台詞には力強いものがたくさんあります。高等試験に合格した時の、
「今、合格してからずっとモヤモヤとしていたものの答えが分かりました。私たち すごく怒っているんです。(中略)法改正がなされても結局、女は不利なまま。女は弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのにですよ? 女ってだけで、できないことばっかり。(中略)生い立ちや、信念や、格好で切り捨てられたりしない。男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ! 私はそんな社会で、何かの一番になりたい。そのためによき弁護士になるよう尽力します。困ってる方を救い続けます。男女関係なく!」
は、その最たるものでした。

三淵嘉子さんの「困っている人間を救いたい」という言葉が、ドラマではこう表現されました。今を生きている人々にも感動を与えるトラちゃんのスピーチでした。

さて、もう一人のトモコさんは、1967年生まれの赤根智子さんです。今年3月、オランダ ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の所長になりました。ICCは、ウクライナ侵攻で多数の子どもを連れ去った戦争犯罪の疑いでロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しています。その報復として、赤根さんたちはロシアから指名手配されました。しかし、彼女は「まったく動揺していない」のだそうです。→東京新聞2024年4月15日記事 
テレビのインタビューで彼女は、「裁判官は仮に一人が死んだとしても替えが利くものですから」と淡々と語っています。その凛とした正義感、責任感、そして大切なものは何かを見据えている姿に圧倒されます。→TBSニュースデジタル
そして、5月20日、ICCは、イスラエルのネタニヤフ首相やハマスの幹部に逮捕状を出し、大きなニュースになりました。
赤根智子さんのことは、もっと日本人としてよく知らなくてはならないと思います。彼女もまた、三淵嘉子さんと同じく、国際法曹界で日本人女性のパイオニアとして道を切り拓いているのです。

【追記】本文でICCとICJを混同して表記してしまいましたので、ICCに直しました。ICJは国連の主要な司法機関である国際司法裁判所、ICCは国際刑事裁判所であり、独立した常設の裁判所です。国際社会全体の関心事であるもっとも重大な犯罪、すなわち集団殺害犯罪、人道に対する罪、戦争犯罪に問われる個人を訴追するところです。混同してしまい、申し訳ありません。勉強不足を恥じております。(5月29日)

エリカさんこと 吉田恵里香さんと憲法

「虎に翼」の脚本を書いている吉田恵里香さんのWebのインタビュー記事を読んだことが、今回私が講堂でお話したいと思ったきっかけでした。若い生徒の皆さんへのメッセージに満ちた内容だったからです。→Woman type 記事『虎に翼』脚本家・吉田恵里香さんと考える「はて?」と声を上げる意味

吉田恵里香さんの言葉
〇「虎に翼」にはいろいろなテーマを込めていますが、その中の大きな一つが「声を上げること、口に出して言葉にすること」です。
〇10年後、20年後に振り返ったとき、声を上げた自分の方が好きだと思えるなら、少しは勇気も湧いてくるんじゃないかな。
自分の権利を奪われないためにも、声を上げていこうという気持ちで「虎に翼」を描いています。
○まずは肯定的な声から上げてみるといいかもしれません。

「虎に翼」の第一回は、日本国憲法第14条から始まりました。

第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

そして、このドラマを絶賛する弁護士の國本依伸さんは、「『虎に翼』は日本国憲法97条のドラマ化だと思う」とおっしゃっています。→記事はこちらから。

第97条
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

確かに、「虎に翼」は、「多年にわたる自由獲得の努力」を描いています。そこから、今を生きる私たちに託されているのはどんなことでしょう。私は最後に第12条の前半を読み上げました。

第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。
又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

ヨシコさんやトモコさんエリカさんなど、女性たちの生き方は皆さんにどんな気づきを与えたでしょうか。過去の人々、女性として前をゆく先輩たちからバトンを引き継いでいる私たち。私たちの「不断の努力」に未来はかかっているのです。声を上げることから始めてください。

明日は静岡県知事選挙です。これをお読みの皆さん、特に、卒業生の皆さん、投票という権利をしっかり行使しましょう。それこそが「不断の努力」の大事な一つです。