小さな白板2025 第25週

図書館入り口に置いた「小さな白板(ホワイトボード)」、季節は6月から7月へ。梅雨明けも迎えた週でした。テストが近づき、放課後の図書館利用者も増えてきました。

6月30日(月)
変はるよりもむしろ移ろふあぢさゐの雨のひかりをはじく淡青
       荻原裕幸

6月のラストは、紫陽花で。「あじさい」を「あぢさゐ」と歴史的かなづかいで表記すると、見慣れた花とは一味違う、神秘的な味わいがありますね。移ろいゆく紫陽花の色。淡い青の花弁が雨に濡れ、雨の光をはじいています。明るい7月の到来を予感させる、明るい気持ちになりました。

7月1日(火)
バタフライ水面飛び出し息を吸う その時聞こえた父の「がんばれ」
       立川隆大

「あいのうた」2017年度の作品です。水泳の大会の最中、息つぎの瞬間に聞こえた父の激励の声は、どんなに彼を奮い立たせたでしょう。バタフライで水面から飛び出した選手の「一瞬」が目に浮かびます。同時に、我が子の健闘を願って、できる限りの声援を送ったお父さんの愛も深く感じますね。

7月2日(水)
通り雨過ぎし野原はりんりんと磁石のやうに光を吸へり
       栗木京子

夏の通り雨が残したものは、磁石のように光を吸い込む野原。雨のあとの鮮やかな緑が、まばゆい夏の光を吸い込んで、いよいよエネルギッシュに輝いています。夏はエネルギーの塊のような季節ですね。

7月3日(木)
うす紅と白のあわいの「こころね」という薔薇 ひそと夏の日に咲く
       三枝浩樹

「あわい」は「間(あいだ)」という意味。薄紅色と白の中間の色が、この「こころね」という名前のバラの色なのでしょう。薔薇の季節を少し外れて夏の陽に咲いた薔薇。ひっそりと咲いたその薔薇に、歌人は静かな美しさを感じたのではないでしょうか。
「こころね」というバラはどんなバラなのかを調べてみました。中が赤く、外は薄紅色の、美しいバラでした。

7月4日(金)
老犬は首輪外しの術覚え夏の散歩を逃れんとする
       長澤ちづ

何だか微笑ましい短歌ですね。老いたワンちゃん、夏の暑い中で散歩するのは嫌なんでしょう。首輪外しの術を覚えて、散歩回避しようとは。かわいいワンちゃんだなあ。犬や猫を歌った短歌は、何度も優しい気持ちになれるものです。同時に、犬の愛くるしさに、胸がきゅっとつかまれたような気持ちになります。

7月5日(土)
ひきだしのサクマドロップスの缶の底 ざざん、ざざんと波音聞こゆ
       齋藤美衣

サクマドロップスというだけで、郷愁を誘われます。いろいろな色と味のドロップを缶の中にしまい込んで、大事にしていた子供時代が私にもありました。いくつ入っているかな…と缶をゆすっていましたっけ。あの音が、齋藤さんには「波音」のようだという…。そう想像してくれた斎藤さんのおかげで、私の心も夏の海辺に吸い寄せられました。