小さな白板2025 第44週

図書館入り口に掲げている「小さな白板(ホワイトボード)」は、2021年から続けている、ささやかな展示物です。短歌や俳句、名文や名セリフなど、様々な言葉を載せています。

2025年もついに12月を迎えました。12月第1週のラインナップを振り返ります。

笹川諒さんの歌集『眠りの市場にて』の中から一首。エスキースって、素描とか下絵という意味なのですね。冬の曇り空は水墨画のような白と黒が主の世界ですが、その中を渡っていく冬鳥を静かに見上げている作者の姿が浮かんできます。鳥は広い広い空の下、どこまで行くのでしょう。

栗が頂にあるということは、マロンパフェですね。パフェもまた短歌になり得るというところに、新鮮な驚きがあります。パフェを注文するときの気恥ずかしさ、テーブルにやってきたパフェを見た時の興奮、その一番上の栗をスプーンに乗せる高揚感…。たった三十一文字からここまで想像できる、短歌ってすごいなあ。

日常生活の一コマをただ切り取る時にも、作者がどんな境遇にあるのか、どんな考えを持っているのかで、詠まれる世界は全然違ってくるものですよね。ティッシュペーパーの最後の一枚を引き出すときに、「魂が抜けていくようだ」と感じる作者の繊細さを想う時、作者は何かに思い悩んでいるのではないだろうかと作者の孤独を想像してしまいます。

滋賀県の琵琶湖西岸に連なる比良山地に、まだ冠雪は少なく、うっすらとしているのでしょう。そんな風景を見ながら、昔「雪風」という軍艦が日本の海軍にあったな、と作者は思い至ります。「雪風」は今年映画にもなりましたね。戦闘が出てくる映画は私はあまり見ませんので、この「雪風」という映画も見ていませんが、他の軍艦から海に放り出された人々を救った軍艦だというところには興味をひかれていました。永田淳さんのこの短歌に出会って、「雪風」を調べてみると、NHKアーカイブスに行き着きました。そこには、次のような記述があります。

「雪風」は、太平洋戦争が始まる前の年に完成し、開戦初頭の南方作戦から、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、そして戦艦大和の沖縄特攻まで、主だった海の戦い全てに参加しながらほとんど無傷で生き抜いた船です。そして、戦後は海外に残された日本人の兵士や民間人の引き揚げ輸送船としても活躍しました。 雪風は、レイテ湾の戦艦武蔵、紀伊半島沖での空母信濃 沖縄海上特攻での戦艦大和をはじめ多くの沈められた船の生存者の救出にもあたりました。戦場で命を救われた人々の思いも幸運艦の呼び名に込められています。  (NHK 戦争証言アーカイブス 幸運艦とよばれた 駆逐艦「雪風」より)

「幸運艦」と呼ばれた「雪風」をもう少し調べてみたいと思うようになりました。

『ねないこだれだ』『めがねうさぎ』シリーズで知られる絵本作家のせなけいこさんが亡くなったのは、昨年10月でした。ちぎり絵の美しい絵本は心に残っています。この短歌は今年1月12日の朝日歌壇で出会った短歌です。せなさんが亡くなる前に買った本ですから、没年はそこには書かれていません。そういう書き方で、作家を悼む作者の静かな悲しみが感じられました。

この短歌に出会ったのも、「朝日歌壇」。今年の10月12日の朝日新聞でした。おお、漱石尽くし!と嬉しくなりました。夏目漱石の作品名がいくつ隠れているか、チェックしてくださいね。
キャンディーズの「微笑がえし」、松田聖子の「20th Party」など、その歌手の曲名が次から次に出てくる歌が私は大好きで、この作詞家は天才だ!!と恐れ入っていました。大島さんの短歌にも同じ「おおっ!」を感じました。

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ここ数日出会った野鳥たち。

シジュウカラは、昨日の朝、生徒と一緒に見つけました。

ホール棟南のナンキンハゼはすっかり葉を落とし、そこにハトがいました。

昨日の朝、道路を飲んビ地歩いていたのは、ハクセキレイ。こののんきな小鳥にひやひやしたドライバーさんも多かったのではないでしょうか。ボケた写真ですみません!

投稿

図書館わきの低木に入ろうとしている鳥を発見して、取りあえず撮影。あとで見たら、ボケボケですが、オスのジョウビタキでした。木の根元にいます、分かりますか?

【おまけ】12月5日の夜、天竜川でサプライズ花火が上がりました。