漱石が若者に訴えたこと

1914年(大正3年)の今日11月25日、夏目漱石が学習院で若者たちに講演しました。公演タイトルは「私の個人主義」。多くの生徒が高校現代文で教わった、あの名作評論です。

私自身も何度高校生にこの評論を教えたことでしょう。一度は、研究授業をこの教材で行ったこともありました。たくさんの先生方が後ろに座っての研究授業に、なぜか4年藤組のメンバーが緊張よりもむしろかなり盛り上がってしまったことをよく覚えています。元気なクラスでした。確か担任は中村智広先生…笑。

今は、高校3年生の教材になっているようですが、「現代文」の数ある教材の中でも、この「私の個人主義」と、丸山真男の「『である』ことと『する』こと」は、国語科の私にとって、教科書に載っていようがいまいが、絶対やりたい2大教材です。

漱石は若者に、自身が懊悩の末「自己本位」の四文字に出会ったこと、「個人主義」のあるべき形などを解きます。「義務の付着しておらない権力」など世の中にはないこと、「責任を有しない金力家」の存在は許されないこと、「自己の個性の発展」を遂げるためには「他人の個性も尊重しなければならない」ことなど、彼の力説が続きます。100年以上前の講演は今聞いても決して古びた主張ではなく、極めて全うな内容なのです。「叱りっぱなしの先生がもし世の中にあるとすれば、その先生は無論授業をする資格のない人です。」なんてことも書いてあり、いつも教師がぎくりとさせられ、生徒はくっくっくと苦笑。きっと、学習院の若者たちも、ここでどっと沸いたことでしょう。

漱石が106年前の今日、学習院の学生たちに訴えた内容を、100年後の私たちが同じように学んでいる。‥‥評論の世界では古典の部類に入るであろう「私の個人主義」の内容は、今もなお、薄れることなく、現代っ子の生徒たちに引き継がれています。かつて、西遠の教室でこの評論を学んだ生徒たちの中にも、少しでも漱石の思いが沈殿し、意思決定時の何らかの参考になっていたらいいですね。もちろん教材なんてすべて覚えている生徒はいませんし、同じ文章でも、その人によって受け止めるポイントも違うでしょう。そんな中で、名作と言われる評論や小説は、より多くの人々に支持され、心に刻み付けられているものなのだと思います。

夏目漱石をはじめとして、たくさんの小説家や評論家が、自身の思いを文章に綴り、本にしています。若い世代へのメッセージもそこにはたくさん詰まっています。名作と出会うために教科書を開き、名作を探しに図書館へ足をのばしましょう。