小さな白板2023 第24週

図書館入り口に掲げている「小さな白板(ホワイトボード)」。テストが迫りくる6月末の一週間を振り返ります。

6月26日(月)
麦茶呑みかあ、と息をつく乳児よ人となれ少しずつ    黒瀬珂瀾

黒瀬さんの短歌には、自分のお子さんのことを歌ったものが多く、私は自分の子育ての頃をいろいろ思い出しては、うんうんと頷いたりしています。先月もこいのぼりの歌を歌う息子さんを詠んだ短歌を白板に書きましたが、今日の短歌には、麦茶を飲んで「かあ」と声を出している息子さんが歌われています。麦茶の飲みっぷりに人としての成長を願うお父さん、きっと目を細めているのでしょうね。子育ては毎日が戦いですが、その日々も気づくとあっという間に過ぎていくもの。黒瀬さんの愛のこもった短歌の中に、忘れかけていた子育ての日々を蘇らせる私です。

6月27日(火)
ラファエロの天使そのものだ赤ちゃんは薔薇色で腕も翼の動き  

  上田結香

昨日の「幼児よ人となれ少しずつ」に続いて、今日は赤ちゃん讃歌です。眼の前の赤ちゃんを見ていると、ラファエロの天使像に見えてくる、と作者の上田さん。「赤ちゃんばんざーい!」と叫びたくなるようなすてきな短歌です。上田さんご自身がお手紙で教えてくださった「朝日歌壇」のライブラリーで、上田さんの短歌をいっぱい見つけました。この短歌は、2020年6月14日掲載のものと書かれています。「本当なら今ごろは」の2か月前の作品ですね。上田さんの短歌、これからもたくさん紹介しますね。

6月28日(水)
ハッピーバースデーの合唱の声はそろひつつ大きく太くなりてをはりつ  

  山下翔

誰かの誕生日を祝う歌声って、最初はなかなか声が揃わないけれど、どんどんそろっていき、大きな歌声になって、うねりのような響きになって、拍手で終わる…、そこには、この日の主人公の誕生日を心からお祝いする真っすぐな気持ちがたくさんたくさんこもっているのだと思います。学園長先生のお誕生日に、この短歌を選びました。

6月29日(木)
今日の月にも名前があって こころってひとつじゃなくてもいいと思うよ
  初谷むい

お月様はたった一つなのに、「三日月」「上弦の月」「満月」「立待月」「居待ち月」「寝待月」…とたくさんの名前を持っています。月を例に出しながら、だから「こころ」だって一つじゃなくていいと思うよ、あなたは一人だけど、心はいっぱいあっていいんだよ、と優しいアドバイス。だれかを励ましている作者の思いやりがじわーっと来ます。

6月30日(金)
波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる   木下龍也

波打ち際で、一人、足を波に浸しているのでしょうか。自分のつま先に寄せてくる波を、「はるかな旅を終えて崩れる」という作者の表現に、「やられた―!」と思いました。自分の感性の鈍さ、発想の凡庸さ、表現の拙さ等々に腹を立てながら、新しいものの見方・考え方を教えてくれたこの歌に感謝しました。海に行ってみたくなりますね。

今日から7月。月初めがお休みの日だと、ちょっと残念。校長室のカレンダーも昨日めくっておきました。でも、考えてみたら、今日は浜松市の市制記念日ですよね。浜松市のお誕生日おめでとう!です。生徒の皆さんはテスト勉強頑張ろう!です。