小さな白板2024 第18週

ゴールデンウィーク中ですが、図書館入り口には、今週も小さな白板(ホワイトボード)を掲げました。気づいてくれたかしら…。4月30日、5月1日、2日と3日間の白板をご紹介します。併せて、5月3日の憲法記念日にちなんで、憲法や平和についても考えます。

4月30日(火)
「はて…?」という台詞が面白いのは、何か違和感を抱かせる(自身への否定や攻撃を含む)コトやヒトに対して、それを感情レベルでの傷つきとして受け止めるのではなく、認知レベルでの疑問、問いとして受け止め、自分を守りながら考え続ける姿勢が、たった平仮名2文字で表されているからだ。
 本田由紀

「はて…?」は朝ドラ「虎に翼」の主人公猪爪寅子(ともこ)が発する言葉です。「虎に翼」が4月1日に始まってから、この「はて」が各所で話題になっています。
東京大学大学院教育学研究科の本田由紀教授が4月6日に旧ツイッターで呟いたのが、この日の白板の文章です。違和感を感じた時に、感情レベルの受け止めではなく、認知レベルで考え続けること。その姿勢をたった2文字で表現しているところに、本田さんは注目しました。この本田さんの呟きに触発されて、「はて?」と考え続ける姿勢について、私も中学入学式で紹介しました。

主人公寅子は、「はて?」と呟きながら、自分の疑問を分析し、おかしいと思ったら声を挙げ、周りの人々と共に解決への道を探っていきます。ドラマの舞台は、今、昭和11年。私の母が生まれた年です。戦争への足音が聞こえ始めている時代、まだ女性に参政権もない時代に弁護士を目指す寅子が、これから幾多の困難に出会うであろうことも想像に難くありません。これから寅子は何度「はて?」を発するのでしょう。

5月1日(水)
逆境?それチャンスだよ!
 長州力
(『きみを変える50の名言』3期より)

春休み、図書館で「きみを変える50の名言」というシリーズ本を見つけました。ページをめくると、科学者からアスリートや芸能人まで様々な人々の名言が掲載されています。いくつかを書き留めた中の一つが、この長州力さんの言葉です。長州力さんの逆転の発想に「おっ」と思いました。短いだけに心に残り、力をもらえる言葉ですね。逆境はチャンスです!

5月2日(木)
全ての武器を楽器に。戦争より祭りを。
     喜納昌吉

この言葉も、前日と同じく「きみを変える50の名言」3期から紹介しました。 喜納昌吉(きなしょうきち)さんは、沖縄出身の音楽家です。♪泣きなさい 笑いなさい♪で知られる「花 ~すべての人の心に花を~」が有名ですね。「全ての武器を楽器に」「戦争より祭りを」は、5月3日の憲法記念日を前にして、また、3日からの浜松まつりを前にして、生徒の皆さんにぜひ伝えたいと思いました。武器が楽器に変わったらどんなにいいでしょう。そして、戦争ではなくお祭りだったら、どんなに素敵でしょう。

☆  ☆  ☆

5月3日の憲法記念日、朝日新聞に2人の女性のインタビュー記事「はて?憲法は誰のため」が掲載されました。お一人は、憲法学者の辻村みよ子さん(74)。もうお一人は、「虎に翼」作者の吉田恵里香さん(36)です。

「虎に翼」の主人公寅子のモデルは、日本初の女性弁護士の一人三淵嘉子さん(1914~1984年)ですが、1949年生まれの辻村みよ子さんもまた、1968年に入学した一橋大学の法学部160人の中のたった二人の女性のお一人でした。大学では「女性のなよなよした声で9条を教えられますか?」と言われたり、「憲法は女性じゃないほうがいい」と国立大学への就職が断られたり、32歳まで大学の専任講師になれないという辛い道を決して諦めず、辻村さんは女性憲法学者のファーストペンギンとして歩まれたのです。寅ちゃんの戦前だけでなく、戦後の辻村さんの歩みもまた、困難を極めたことを知り、辻村さんが諦めなかったからこそ、今の女性の地位があるのだと改めて思いました。

吉田恵里香さんは、「虎に翼」の初回で紹介された憲法14条について、ご自身が中学受験で触れた頃には「当たり前のこと」だった14条が、いま改めて背景を知ると、「当たり前ではなかった時代があったこと」を恐ろしく感じてしまう、とおっしゃっています。

辻村さんも「虎に翼」を楽しみに視聴しておられるとのこと。そして、今も権利のために闘い続けていらっしゃいます。お二人のインタビューは、今年の憲法記念日に一番インパクトのあった記事でした。

この日、私は一冊の絵本を読みました。「戦争は、」という絵本(岩波書店)です。文:ジョゼ・ジョルジュ・レトリア 絵:アンドレ・レトリア 訳:木下眞穂。暗い絵と、短い文(言葉のないページもある)の、いつも私が皆さんに紹介する絵本とは明らかに異質な絵本でした。
帯には、「自らも独裁政権に抗した文学者の詩と、その息子による絵で、戦争の根源的な恐ろしさをあらわにする」とあります。翻訳した木下眞穂さんは「この絵本を手にとって『こわい』と感じる人がいるかもしれませんが、それは、作者の伝えたいことが真っすぐ届いている証拠です。」と述べています。

ジョゼ・ジョルジュ・レトリア は、1951年生まれのポルトガル出身の詩人。息子のアンドレは、イラストレーターだそうです。皆さんはこの絵本を「こわい」と思うでしょうか。私は、恐ろしかったです。この絵本は、生徒の皆さんにも手に取ってほしいので、近々図書館に寄贈しようと思います。

今日はこどもの日。世界中の子どもたちが、命の危険にさらされず、幸せな笑顔で過ごせますように。爆弾や戦車の脅威にさらされず、ゆっくりと夢を見られますように。GWが明けると、5月14日には殉難学徒慰霊式が予定されています。西遠生にとって「戦争」「平和」について考える大事な季節が今年も巡ってきました。