懐かしい本のお話 その2

昨夜からの豪雨により、河川の氾濫や道路の寸断など、日本列島の各地で災害が起きています。被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。この雨は一週間降り続くと言われています。各地の皆様、どうぞ最新の情報で的確な行動をお取りください。

8月2日に「懐かしい本のお話 その1」として、「あしながおじさん」と「若草物語」を紹介しました。いずれも小学生の頃に出会って、10代を彩ってくれた名作です。

今日は、中学3年生の時に出会った一冊を紹介します。

「木かげの家の小人たち」 いぬいとみこ

「木かげの家の小人たち」ーこの本に出会ったのは、中学3年生の時でした。国語の担任だった乾先生が紹介してくださった本です。

写真をご覧いただければ、古い本だということが歴然としていますね。表紙のあちこちにセロテープが…。破れかけた表紙を不器用に修繕した、昭和のセロテープ跡です。

それまでファンタジーは自分の趣味ではありませんでしたが、この本には強く惹かれました。戦争前夜から始まるこの物語には、当然小人たちが登場します。イギリスからやってきた小人の夫婦が2人の子どもを産み育てるころ、小人を守る人間の家族によって、小人たちは家族とともに東京から疎開し、長野県へと移動します。かたくなに今までの生活を守る親世代と、長野の自然の中に飛び出していく子ども世代。子どもの小人アイリスとロビンは、アマネジャキや鳩の弥平といった友達を得て、生きる力を得ていきます。

一方で、小人を守り抜くと決意した人間の女の子 ゆりに、試練が訪れます。小人たちに毎日運ばなくてはならないミルクが、戦争で手に入らなくなるのです。戦争を賛美する兄とも、心が離れていきます。

戦争が人間の家族を引き裂き、小人たちにも試練を与える…ファンタジーだけれど、平和の尊さ、人間の心の持ちようを静かに訴える小説です。

この本は、子育て中の思い出の本でもあります。きっとこの写真を見ると、娘も息子も懐かしがることでしょう。

子どもたちが保育園に通っている頃、保育園の息子の担任の先生にある日こう言われました。「お母さん、今日、けいちゃん(息子)が私のお膝に入ってきて、本読んで!って言ったんですよ。おうちでもぜひ読み聞かせをしてあげてください」…その晩から、寝床に入った子供たちに本を読むことにしました。最初は絵本だったのですが、絵本はすぐに読み終わってしまいます。家にある絵本を読み尽くし、自分が子どものころ読んだ本にも範囲を拡大し、小学生用の本も読み尽くして、ついにこの分厚い文庫本「木かげの家の小人たち」にたどり着きました。何日もかかって読み終えましたが、この本のことをたいそう気に入ってくれた二人は、毎晩続きを楽しみにしてくれました。息子はアマネジャキがお気に入りだったようです。時は流れ、この本の話題になった時、中学生になった息子が突然「もっとはやく、まわってまわって!」と言い出した時にはびっくり。私自身この台詞を忘れていましたが、それは、言うことを聞かないアマネジャキに対してアイリスが正反対の命令(静かにさせるための)をするシーンだったのでした。遠い日の読み聞かせが、こうして息子の心にまだ残っていたのです。物語を全部覚えていなくても、どこかのシーンが生きていることで、読み聞かせしたことが報われたんだな、と思いました。保育園の先生に感謝しています。

終戦の日が近づいています。ファンタジーの世界にも、平和を愛する心が宿っています。ミルクを小人たちに運ぶ役目が兄から妹に引き継がれていった「木かげの家の小人たち」の物語は、乾先生から私へ、私から娘と息子へ、物語の中に流れる優しさと共に「平和を愛する心」も引き継いでくれたのだと思っています。